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2025/08/29

マルチエージェントが導く顧客理解の深化 ── JALカードと NTTデータが、Azure を基盤とする AI ペルソナ活用により購買率 1.7 倍を実現

クレジットカードと JAL のマイレージプログラムを組み合わせたオリジナリティのあるサービスで、他のクレジットカード会社とは一線を画した事業を展開する JALカード。同社では、会員一人ひとりの潜在ニーズを引き出す最適なコミュニケーションを模索してきましたが、JAL が持つマイレージ情報や同社が持つカード利用履歴などの顧客データから分析を試みるものの、表面的な理解に留まり、顧客を深く理解できないことが課題でした。そのために「顧客立体化構想」に着手。さまざまなアイデアが検討されていきました。

その中で具体的に取り組んだのが、クラスタ化された会員データを基に「AI ペルソナ」を生成し、それらにグループ インタビューを行うことで、顧客行動の裏にある心理を深掘りする、というアイデアです。AI ペルソナどうしのディスカッションの場としては、NTTデータが提供する「LITRON® Multi Agent Simulation (以下、LITRON MAS)」を活用。その製品には Azure OpenAI が利用されています。

AI ペルソナに対するグループ インタビューの実証実験を行ったところ、人間どうしでは難しい「忖度のない議論」が展開され、従来のマーケターの先入観を覆す結果が得られました。これを基にしたターゲティングにプロモーション販売を行ったところ、購買率はそれまでの 1.7 倍に上昇。購入率が低かった高額商品の販売拡大にも成功しています。JALカードと NTTデータの共同検討と検証は現在も続いており、トップライン向上やエモーショナルな領域での生成AI活用が目指されています。

JALCARD

顧客の立体的な理解のため、会員データを基にした AI ペルソナどうしの議論を考案

JAL のマイルを付加価値とした「航空系クレジットカード会社」として、航空機を利用されるお客さまはもちろんのこと、あらゆる方の生活フィールドにおいて JALカードの魅力を発信し、新たな ”JAL ファン” を創造することを目的に、1984 年に創業した株式会社ジャルカード (以下、JALカード)。「豊かな人生を送りたい人の、一番の理解者。」というブランド コンセプトを掲げ、「日常」と「非日常」をつなげるさまざまなサービスを、クレジットカードとマイレージを組み合わせることで実現しています。また JALカード利用促進を目的に、顧客基盤を活用して外部企業の商材・サービスをプロモーションするマーケティング施策も展開。データ・ビジネス・カンパニーとして、新商品や新サービスの開発を含む新たな価値の創出に向けた果敢な挑戦を続けています。

しかし「会員属性や利用情報を活用した販促支援サービスを提供する企業は、JALカード以外にも数多く存在します」と語るのは、JALカード 企業マーケティング部 戦略事業企画グループでグループ長を務める豊浦 拓哉 氏。「多くのキャッシュレス事業者やポイント事業者などの競合ひしめく厳しい環境の中で、JAL ならではのデータという強みを活かして、どのように提供価値を高めていくのか。これが大きな課題になっていました」。

この課題に向き合うため、2023 年 5 月から株式会社NTTデータ (以下、NTTデータ)と共に「アイディエーション (アイデアの創出とその具現化)」を実施。これまではデータだけで「平面的」に見ていた顧客像をより「立体的」に把握するという、「顧客立体化構想」に取り組んできました。その中で NTTデータから提案されたのが、生成 AI で複数のペルソナを作り、それらに議論を行わせることで、顧客の心理をより深く掘り下げていく、というアイデアです。

「人は他人から見て合理的ではないと感じられる行動を取ることがありますが、それも本人にとっては納得のうえというケースが少なくありません」と語るのは、NTTデータ コンサルティング事業本部 カスタマー&マーケティングユニット コンサルティンググループでシニアコンサルタントを務める中嶋 洋介 氏。このような行動の背景にある心理は、データを「平面的に分析」するだけでは見えてこないと言います。

「そこで考えたのが AI ペルソナどうしの議論です。購買行動から会員をクラスタ化し、これに基づいて作成したペルソナが議論することで、顧客行動の本質が掘り下げられると考えました」。

豊浦 拓哉 氏, 企業マーケティング部 戦略事業企画グループ グループ長, 株式会社JALカード

“AI ペルソナの間では、マーケターの自分には思いも寄らない議論が展開されていきました。リアルな人間では難しい『他者批判』を含むやりとりが、忖度なく行われていたのです。このような議論ができるツールは、これまでのマーケティング活動の中で見たことがありません。その結果を基にターゲット層を決めて高級ワインを販売したところ、購入率は従来の 1.7 倍になりました”

豊浦 拓哉 氏, 企業マーケティング部 戦略事業企画グループ グループ長, 株式会社JALカード

AI ペルソナの議論の場として Azure を活用する「LITRON MAS」を活用

このアイデアが生まれるきっかけになったのは、中嶋 氏が NTTデータ社内で、あるレポートを見つけたことでした。その内容は、複数の生成 AI エージェントどうしを会話させるという実験レポート。これなら JALカードの会員像を仮想的に作り出し、そのイメージを立体的に膨らませられると直感したと、中嶋 氏は振り返ります。なおこの実験結果は、2024 年 7 月に発表された「LITRON MAS」という新サービスに結実しています。

「LITRON MAS の基本機能は、AI ペルソナどうしが議論する場を提供することにあります。そのために『会議設計』というノウハウも確立しています。今回のプロジェクトでは、最初に各ペルソナが自分の主張を行ってから他者を批判するようにしていますが、これも会議設計の中に組み込んでいます。そのうえで、これも生成 AI で作られたファシリテーターが、どのペルソナが最も購入しやすいのかを判断しています」 (中嶋 氏)。

その効果を計測するため、2024 年 7 月には実証実験をスタート。これは NTTデータが JALカードを支援するのではなく、両社が一緒に将来の新ビジネスにつなげていく「共同検討および検証」として行われました。

実証実験は大きく 4 つのステップで進められていきました。第 1 は会員データの整理と抽出。JALカードには約 360 万人に上る会員データがありますが、その中から一定の条件に合った一部の会員データが抽出されました。第 2 は会員のクラスタリング。主として購買行動をもとにした、12 のクラスタが作成されました。第 3 は、各クラスタのライフスタイルを想定した AI ペルソナの生成。そして第 4 が、これらの AI ペルソナを LITRON MAS に取り込んで、グループ インタビューを実施することです。

LITRON MAS は NTTデータが提供する仮想デスクトップ基盤「BizXaaS Office」上で稼働していますが、その基盤としては Microsoft Azure (以下、Azure) が活用されており、バックエンドとなる生成 AI サービスとして Azure OpenAI も利用されています。LITRON MAS の基盤に Azure を採用している理由について、中嶋 氏は次のように説明します。

「LITRON の基盤として Azure を採用しているのは、最先端の LLM がクイックかつ使いやすい形で提供されているからです。また安定した接続によりアプリケーションの運用効率が高められることや、LLM のラインナップが充実していることも評価されました。NTTデータでは "Smart AI Agent™" をコンセプトに、顧客の抜本的なビジネス変革を推進していますが、多様な LLM から最適な AI エージェントを構築できるのは大きなアドバンテージだと考えています」。

脇嶋 康介 氏, 企業マーケティング部 戦略事業企画グループ, 株式会社JALカード

“実際に人を集めてグループ インタビューを行う場合には、事前の設計や準備も含め、1 回あたり 2 か月程度かかります。しかし LITRON を使った AI ペルソナへのグループ インタビューは、ペルソナとインタビュー設計、それらの準備を含めても 2 週間程度で始められます。1 回のインタビューは 5 分程度で終わるため、2 週間で 30 回のインタビューを行うことも可能。短時間で何度も議論を繰り返すことで深掘りができ、結果の精度を高めていくことも容易です”

脇嶋 康介 氏, 企業マーケティング部 戦略事業企画グループ, 株式会社JALカード

1 回わずか 5 分のグループ インタビューで購入率が 1.7 倍に

LITRON MAS 上での AI ペルソナのグループ インタビューは、ペルソナを入れ替えながら合計 30 回程度実施されました。参加する AI ペルソナは、毎回 4 ~ 5 名程度だったと豊浦 氏は説明。そしてその結果は、驚くべきものだったと振り返ります。

「AI ペルソナの間では、マーケターの自分には思いも寄らない議論が展開されていきました。リアルな人間では難しい『他者批判』を含むやりとりが、忖度なく行われていたのです。このような議論ができるツールは、これまでのマーケティング活動の中で見たことがありません。その結果を基にターゲット層を決めて高級ワインを販売したところ、購入率は従来の 1.7 倍になりました」。

また、それまで購入率が低かった高級ワイン セットの販売増にも成功。これまでの「マーケターの先入観」が、見事に覆されたと言います。

その一方で、JALカード 企業マーケティング部 戦略事業企画グループの脇嶋 康介 氏は、グループ インタビューを短時間で行えることも、AI ペルソナの大きなメリットだと指摘します。

「実際に人を集めてグループ インタビューを行う場合には、事前の設計や準備も含め、1 回あたり 2 か月程度かかります。しかし LITRON を使った AI ペルソナへのグループ インタビューは、ペルソナとインタビュー設計、それらの準備を含めても 2 週間程度で始められます。1 回のインタビューは 5 分程度で終わるため、2 週間で 30 回のインタビューを行うことも可能。短時間で何度も議論を繰り返すことで深掘りができ、結果の精度を高めていくことも容易です」。

このような実証実験を 2025 年 3 月まで実施。2025 年 4 月からは次の目標を掲げた、新たな共同検討と検証が始まっています。

中嶋 洋介 氏, コンサルティング事業本部 カスタマー&マーケティングユニット コンサルティンググループ シニアコンサルタント, 株式会社NTTデータ

“LITRON MAS の基本機能は、AI ペルソナどうしが議論する場を提供することにあります。そのために『会議設計』というノウハウも確立しています。今回のプロジェクトでは、最初に各ペルソナが自分の主張を行ってから他者を批判するようにしていますが、これも会議設計の中に組み込んでいます。そのうえで、これも生成 AI で作られたファシリテーターが、どのペルソナが最も購入しやすいのかを判断しています”

中嶋 洋介 氏, コンサルティング事業本部 カスタマー&マーケティングユニット コンサルティンググループ シニアコンサルタント, 株式会社NTTデータ

今後も JALカードと NTTデータのタッグで、生成 AI 活用の先頭を走る

ここで検討されている内容は、大きく 3 つあります。

第 1 は、実証実験で得られた「コア ノウハウ」を整理かつ体系化し、既存のマーケティング施策で活用することです。

第 2 は、コア ノウハウを活用した新規事業の開発です。これは NTTデータと共同で進めていく計画です。

そして第 3 が、利用するデータ規模の拡大です。今回の実証実験では一部の会員データが利用されましたが、それを全会員に拡大していくことが考えられています。

「既に JALカードでは、JAL-AI などによって生成 AI を業務効率化に活用してきましたが、今後は生成 AI を活用した CX 向上と新たな事業機会の両立を図り、JALカードのビジネス変革という次のステップへと踏み出したいと考えています」と豊浦 氏。また中嶋 氏も「今回の実証実験の結果は、トップラインを上げるために生成 AI を活用するための、1 つの指針になるはずです」と述べています。

さらに中嶋 氏は「今回得られたノウハウは、他のお客様への価値提案にも活用していきます」と言及。「これからも JALカード様と生成 AI の新たな活用方法を開拓し、この分野の先頭を一緒に走っていきたいと考えています」。

※本お客様事例に記載された情報は、取材当時 (2025 年 5 月時点) のものです。

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