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2025/08/29

現場の声から生まれたイノベーション。イオンリテールが実現した Microsoft AI 活用の次世代型従業員マニュアル「AIアシスタント」

イオンリテールでは「働き方のリデザイン」を進めており、デジタル化を含むさまざまな施策を推進している。同社では定期的に全店舗の従業員から要望や困りごとをヒアリングしており、「業務端末の一体化」「同一 ID でのシステム利用」という要望が多く寄せられていた。また、約 400 店舗、従業員約 10 万人という規模における情報共有の困難さや、就業形態の違いによる情報格差の解消も重要な課題となっていた。

1 台で多くの業務システムにアクセス可能な従業員専用端末「オールインワン デバイス」およびシングル サインオンで使える「従業員アプリ」を開発。Azure OpenAI を使った次世代型従業員マニュアル「AIアシスタント」とともに検証を進めている。これらのソリューションにより、本社と店舗間の情報格差解消や、統一された業務標準化の実現を目指している。

 

数店舗での検証導入を実施しており、今後はそこから得られたフィードバックを反映して改善、近い将来には全国の店舗に導入範囲を広げていく予定。現場で利用した従業員からは、オールインワン デバイスのデザイン性や AIアシスタントの精度に高い評価が寄せられている。現場第一主義の同社らしく従業員の声を丁寧に吸い上げて改善に活かすプロセスが確立されており、より実用性の高いシステムへの発展が期待される。

AEON RETAIL Co Ltd

現場第一主義が DX の成功を導く

イオンリテール株式会社は「イオン」や「イオンスタイル」など約 400 の総合スーパー(GMS:General Merchandise Store)を展開し、約 10 万人の従業員を抱える日本最大級の小売企業です。同社は「お客さまを原点に平和を追求し、人間を尊重し、地域社会に貢献する」というイオングループの理念のもと、地域住民の暮らしを支えるインフラとして革新的な取り組みを続けています。

同社では現在、従業員エンゲージメントを高めるための「働き方のリデザイン」を進めており、さまざまな施策のなかでデジタルの力を活用しています。なかでも、Microsoft AI のソリューションである Azure OpenAI を活用して開発した「AIアシスタント」による業務の標準化プロジェクトは、業界でも大きな注目を集めています。

同社はこれまでも積極的に DX に取り組んできました。過去のデータに基づいて適切な値引き率を提示する「AIカカク」や勤務計画の自動作成システム「AIワーク」などによる固定業務の省力化、さまざまな支払いスタイルに対応可能なレジ配置モデル「スマートモデル」による新たな顧客体験の創出など、デジタルを用いた画期的な施策により現場の課題解消、サービス価値の向上を実現しています。

こうした施策を打ち続けられる背景には、同社の現場第一主義の風土があるとイオンリテール株式会社 IT企画本部長の山村 卓也氏は語ります。

「私たちの強みは、現場で活躍する従業員です。小売業は人間産業であり、従業員一人ひとりが企業の価値を高めてくれる存在です。彼らが働きやすい環境や提案の声をあげやすい組織風土をつくることが重要だと考えています」(山村氏)

約 400 の店舗、約 10 万人の従業員を抱える同社ですが、定期的に Microsoft Forms を使って従業員から提案や困りごとを募集したり、経営幹部が全国の店舗を訪問して現場の従業員との対話の機会を設けたりといった仕組みを構築し、現場で働く従業員の声を経営戦略に直接反映させられる環境を整備しています。

「現場のニーズに裏打ちされることで私たちも背中を押されますし、"自分たちの声を聞いてもらえる"と従業員のモチベーション向上にもつながっています」(山村氏)

こうした現場の声から誕生したのが、次世代型従業員マニュアル「AIアシスタント」です。この AIアシスタントは、複数のシステムを集約した「オールインワン デバイス」と、従業員一人ひとりの業務に応じて適切な支援をおこなう「従業員アプリ」と連携させることで、現場の包括的な業務支援ソリューションを実現する最重要プロジェクトです。

山村 卓也氏, T企画本部長, イオンリテール株式会社

“私たちの強みは、現場で活躍する従業員です。小売業は人間産業であり、従業員一人ひとりが企業の価値を高めてくれる存在です。彼らが働きやすい環境や提案の声をあげやすい組織風土をつくることが重要だと考えています”

山村 卓也氏, IT企画本部長, イオンリテール株式会社

シングル サインオンで複数の業務システムを 1 台で操作

さまざまな業務システムを開発・導入してきた結果、同社の店舗において従業員が扱う端末は、ハンディターミナル、タブレット端末、発注端末、デスクトップ PC など業務によって分かれ、業務の非効率化の一因となっていたと山村氏は語ります。「従業員からの困りごととして最も多かったのが、業務端末の一体化でした」

また、システムごとに異なる ID でログインする必要があるのが不便という意見も多数あがっていたことから、シングル サインオンでさまざまな業務システムにアクセスできる「オールインワン デバイス」の開発・導入プロジェクトがスタートしました。

開発においては、山村氏が「いかにも“働くための端末”にするのではなく、身につけて楽しいものや従業員の間で話題になるものにしたかった」と語るとおり、小売現場の主力となっている女性の意見が取り入れられました。女性中心のチームがデザインを担当したオールインワン デバイスは、さまざまなカラーバリエーションを持ち、持ちやすさと可愛らしさを両立した筐体デザインが採用されています。

「無機質な筐体に“売り場名称”などが大きく文字テープで貼られているような、いかにも業務端末のような見た目にはしたくありませんでした。“黄色を選んだのね”といった従業員同士の会話のきっかけになるような、愛着を持って使ってもらえるツールになることを期待しています」(山村氏)

実証に参加した従業員からも「これまでは黒一色でほかのデバイスとも区別がつきにくかったけれど、明るい色なのですぐに見分けられる」と好評を得ているそうです。

このオールインワン デバイスには、AIカカクや AIワークなどの既存アプリに加えて、Microsoft Teams などの業務アプリや商品位置検索システム、OCR(光学文字認識)機能などが実装されており、1 回のログインで複数のシステムを横断的に利用できます。さらに、Microsoft Teams の搭載により、本社からの重要な情報や緊急連絡を、就業形態に関わらずすべての従業員に確実に届けることも可能になります。

将来的には、アプリ自体をパーソナライズすることで、従業員一人ひとりの業務スケジュールや職務に最適化できるようになるとのこと。さらに生成 AI を活用した従業員マニュアル「AIアシスタント」を搭載して、従業員の業務省力化やスキルの標準化を支援するツールへと進化させる予定です。

現場の業務標準化を目指して AIアシスタントを開発

次世代型従業員マニュアル「AIアシスタント」もまた、現場のニーズから生まれた業務支援ツールです。

多種多様な商品・サービスを基本的に対面で提供する同社において、サービスカウンターの役割は非常に重要であり、担当者には複雑かつ高度なオペレーションが求められます。イオンリテール株式会社 ストアオペレーション部 チェックアウト改革グループ マネージャーの山田 奈緒美氏は、 サービスカウンター業務に関してこう語ります。

「普通の売り場だと覚えるべきオペレーションは 50 種類くらいなのですが、サービスカウンターは免税対応やポイントの仕組みなど 80 種類程度、売り場の 1.5 倍くらい覚える必要があります。頻繁に情報の更新が必要ですし、最近はお客さまもいろいろな情報を知ったうえで質問されるので、より高度な対応が求められます」(山田氏)

サービスカウンター業務は習熟に時間がかかる一方で、人材育成にかけられるリソースは限られています。必然的に専門知識を持つベテラン従業員への依存が高まり、さらに人によって回答の精度にばらつきが生じてしまうという課題もありました。

同社では早い段階でこの課題に気づいており、解決施策を模索してきました。しかし、なかなかうまくいかなかったといいます。「当初はチャットボットを開発して回答の標準化を図ろうとしたのですが、全国の店舗ごとに異なる立地や規模、オペレーションがあるなかで、なかなかうまくいきませんでした」(山村氏)

そこで着目したのが生成 AI でした。「生成 AI を使えば、最適な情報が自動的に学習されてアウトプットできる点に可能性を感じました」と山村氏。同社では多くの業務システムを Azure 上で展開していたことから、Azure OpenAI を使った「AIアシスタント」の開発に着手することになりました。

山田 奈緒美氏, ストアオペレーション部 チェックアウト改革グループ マネージャー, イオンリテール株式会社

“普通の売り場だと覚えるべきオペレーションは 50 種類くらいなのですが、サービスカウンターは免税対応やポイントの仕組みなど 80 種類程度、売り場の 1.5 倍くらい覚える必要があります。頻繁に情報の更新が必要ですし、最近はお客さまもいろいろな情報を知ったうえで質問されるので、より高度な対応が求められます”

山田 奈緒美氏, ストアオペレーション部 チェックアウト改革グループ マネージャー, イオンリテール株式会社

現場目線の日本マイクロソフトの支援によってプロジェクトは順調に進展

AIアシスタントの開発においては、日本マイクロソフトからの提案に大いに助けられたと山田氏は振り返ります。

「これまでのシステム開発では、私たちの要望をベンダーさんに実現していただく形が多かったのですが、本プロジェクトにおいては、現場のニーズに合わせたシステムを日本マイクロソフトさんが提案してくれました。専門的な知識を持っている日本マイクロソフトさんが広い視野からアドバイスしてくれたおかげで、プロジェクトが順調に進んだと思っています」(山田氏)

「マイクロソフトの営業担当が実際に店舗に足を運んで、従業員の声を聞いて提案に反映してくれたのです。私たちの現場第一主義の精神を汲み取っていただけたことに感謝しています」(山村氏)

日本マイクロソフトからの提案は、顧客満足度を高めるだけでなく、従業員の満足度も向上させることで、「すべてのステイクホルダーがエンゲージメントを高められるシステムの構築を目指す」というものでした。そのためには、一度構築して終わりではなく、現場からのフィードバックを反映して改善し続けることが重要という認識も、イオンリテール社内の考え方と一致するものでした。

「現在数店舗のサービスカウンターで検証を進めているところですが、そこからのフィードバックをもとに、よりよいツールにしていきたいと考えています。オールインワン デバイスにも搭載して、すべての従業員が使えるようにしていきたいですし、ゆくゆくはお客さまにも解放してご要望に直接回答できるようにするなど、活用の幅を広げていきたいですね」(山村氏)

長年サービスカウンター業務に携わり、AIアシスタント開発にあたって現場ニーズの反映や調整を担当したイオンリテール株式会社 ストアオペレーション部 チェックアウト改革グループの小泉 尚子氏も、山村氏の言葉にうなずきます。

「私がサービスカウンター担当だったときにこれがあったら、という視点からAIアシスタントを育てていければと思っています。たとえば免税の知識は、インバウンドのお客さまが多い店舗であれば法改正のキャッチアップも進んでおこないますが、そうでない店舗ではどうしても優先度が下がりがちです。そのギャップを埋められるツールにしていくことが目標です」(小泉氏)

現在、従業員アプリと AIアシスタントは検証導入の段階で、いくつかの店舗で実際に運用し、改善点を洗い出しています。現場からはこのような声があがっているといいます。

「現場でお客さまからお問い合わせを受けたときに咄嗟にマニュアルを思い出せなかったときなどに AI アシスタントを使うと、回答と一緒に根拠となるマニュアルも教えてくれるので、正確な情報もご案内できるうえにマニュアルを探す時間も短縮できてとても便利です」(イオンスタイル幕張新都心 店舗従業員)

「今はサービスカウンターだけで利用していますが、今後売り場などでも使えるようになったら、専門ではない領域でもご案内できてご対応の時間も短縮できます。お客さまにとっても、わたしたち従業員にとってもすばらしいものになると思います」(イオンスタイル幕張新都心 店舗従業員)

これらの従業員の声を反映して、なるべく迅速にアップデートしていきたいと山村氏。「近い将来には全国に展開し、従業員がこれなしでは働けないくらいの状態にもっていくことが私たちの野望です」と意欲を燃やしています。

小泉 尚子氏, ストアオペレーション部 チェックアウト改革グループ, イオンリテール株式会社

“私がサービスカウンター担当だったときにこれがあったら、という視点からAI アシスタントを育てていければと思っています。たとえば免税の知識は、インバウンドのお客さまが多い店舗であれば法改正のキャッチアップも進んでおこないますが、そうでない店舗ではどうしても優先度が下がりがちです。そのギャップを埋められるツールにしていくことが目標です”

小泉 尚子氏, ストアオペレーション部 チェックアウト改革グループ, イオンリテール株式会社

DX は技術ありきではなく、従業員と顧客の接点を手厚くする手段

プロジェクトの順調な進捗に目を細める一方で山村氏は、「小売業における DX の目的は技術を使うことではありません。“こんな技術があるから使ってみよう”という発想では、現場のニーズに応えることはできません」と力を込めて語ります。

「デジタルかどうか、最新技術かどうかに関わらず、現場の困りごとの解決に最適なソリューションやツールを投入して、従業員がお客さまと直接関わる時間を増やすことが最も大切な目的だということを忘れてはいけません」(山村氏)

小泉氏は「これらのツールが、上司や同僚がいなくても現場の従業員がお客さまのご要望に対応できる基礎となるもの、自信となるものになってほしいですね。AIアシスタントのブラッシュアップなど、皆さんに“イオンで働くのが楽しい”と思ってもらえる支援を提供していければ」とさらなる従業員支援に意欲を覗かせます。

小泉氏と同じく現場経験豊富な山田氏も「現場での業務は、“もっとこうすればよかった”“もっとお客さまの役に立てたのに”という後悔の連続です。従業員アプリや AIアシスタントのようなシステムでそういった後悔を少しでも減らして、皆さんに “イオンで働き続けたい”と思ってもらえたら」と、従業員の視点からDXの意義を語ってくれました。

最後に山村氏は、日本マイクロソフトとの協業に関して「価値のあるシステムを一緒につくってくださり、本当に感謝しています。今回のプロジェクトで、現場まで出向いて従業員の声を直接聞いて、それに寄り添って支援してくれる姿勢には感銘を受けましたし、そこから生まれた提案には強い説得力を感じました。これからもさらに緊密にご支援いただけるとありがたいです」と未来志向のパートナーシップに期待を寄せてくれました。

従業員に寄り添い、その先の顧客満足度を第一に変革を進めるイオンリテール株式会社。我が国のリテール産業におけるトップランナーは、常に足元を見つめながらデジタル技術を適切に活用することで、その目標を追求し続けています。これからも、地域に暮らす私たちに寄り添った素晴らしいサービスを提供し続けてくれることでしょう。

山村 卓也氏, T企画本部長, イオンリテール株式会社

“価値のあるシステムを一緒につくってくださり、本当に感謝しています。今回のプロジェクトで、現場まで出向いて従業員の声を直接聞いて、それに寄り添って支援してくれる姿勢には感銘を受けましたし、そこから生まれた提案には強い説得力を感じました。これからもさらに緊密にご支援いただけるとありがたいです”

山村 卓也氏, IT企画本部長, イオンリテール株式会社

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