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10/07/2025

Microsoft Fabric を活用した「INPEX ESG Data Hub」で ESG 報告業務を最適化、約 50 時間費やしていた廃棄物分類、集計の作業が不要に

エネルギーの安定供給を行う中で、HSE (健康・安全・環境) を最優先事項とし、持続可能性の取り組みを進める INPEX。その一環として廃棄物管理の徹底とその情報開示を行っており、2023 年度報告からは国際的な開示基準である「GRI306」基準に準拠した分類も導入しています。しかしこれによって分類項目が一気に増え、HSE (健康・安全・環境) 部門での集計と取りまとめ業務の時間も、月間 15 時間から 50 時間へと増大していました。

この問題解決のために、Microsoft Fabric を活用した「INPEX ESG Data Hub」を構築。電子マニフェストや請求書からのデータ抽出、分類、集計、取りまとめの自動化を実現しました。電子マニフェストのような構造化データに対し、Fabric のデータフローとノートブックの組み合わせにより柔軟な処理を実現。PDF で渡される請求書は Azure AI Document Intelligence で Markdown 化し、Azure OpenAI で分類と集計を行っています。

「INPEX ESG Data Hub」を活用することで、HSE 部門での分類、集計、取りまとめの業務時間は 1 時間程度にまで短縮。これによって本来の業務である、施策立案や改善提案の時間を確保できるようになり、データを活用したアイデアも生み出しやすくなりました。今後は Microsoft Fabric の適用領域を拡大し、グローバルでのデータ基盤にしていく計画です。

INPEX

「GRI306」の廃棄物分類をいち早く導入した結果、分類/集計の時間が一気に増大

日本最大規模のエネルギー開発企業として、石油、天然ガス、低炭素エネルギーの安定的な供給を続けている株式会社 INPEX (以下、INPEX)。その生産量は日本の年間エネルギー消費量の約 1 割を占めており、次世代のエネルギーへの移行に向けた「責任あるエネルギー・トランジション」の実現に向けた取り組みも積極的に推進しています。また事業における持続可能性や、HSE (健康・安全・環境) を重視していることも、同社の大きな特徴だと言えるでしょう。

その一環として行われているのが、廃棄物管理の徹底とその情報開示です。プロジェクト実施国の法令に従い、廃棄物を適切に管理、処理、処分すると共に、廃棄物に関する法的要求事項、リスク管理方法、処理/処分方法、監査計画などを含む廃棄物管理計画を作成。2023 年度報告からは「GRI306」基準に準拠した分類も導入しています。なお GRI (Global Reporting Initiative) とは、UNEP (国連環境計画) の公認団体として 1997 年に設立された、サステナビリティに関する国際的な開示基準の策定を行う非営利団体です。GRI306 は GRI が定めるサステナビリティ報告ガイドライン「GRI スタンダード」に含まれる「廃棄物」に関する報告基準であり、2022 年 1 月に発効されています。

「GRI306 の分類をいち早く導入したのは、先行する国際基準に準拠するためです。導入により、より正確な廃棄物処理状況の把握が可能になり、廃棄物の適正な処分や削減・リサイクルの推進に繋げることができます」と語るのは、INPEX HSE ユニット 環境グループの山本 汐音 氏。しかしこれによって廃棄物の分類が一気に増え、手作業での分類業務が必要になったと言います。「以前は各現場で集計された廃棄物データや電子マニフェスト データを HSE ユニットで集計し、取りまとめるのに毎月 15 時間程度の業務時間でしたが、GRI306 に対応してからは毎月 50 時間に増えてしまいました」。

この問題を解決するため、HSE ユニットは社内のデジタル部門 (現在の「先進O&Mグループ」) に相談。これを受けて構築されたのが、Microsoft Fabric と各種 AI を活用した「INPEX ESG Data Hub」です。

山本 汐音 氏, HSE ユニット 環境グループ, 株式会社 INPEX

“以前は現場で集計したデータや電子マニフェスト データを HSE ユニットで分類、集計していましたが、INPEX ESG Data Hub によってこれらの業務がすべて不要になりました。電子マニフェストのデータと、現場から送られた請求書データを、SharePoint Online にアップロードするだけでよくなったからです。HSE ユニットでの業務時間は 1 時間程度にまで短縮されました。”

山本 汐音 氏, HSE ユニット 環境グループ, 株式会社 INPEX

業務自動化のため「INPEX ESG Data Hub」構築へ、その基盤選定は「Microsoft Fabric が最適」

INPEX ESG Data Hub の構想について、INPEX 技術統括本部 O&M・施設ユニット 先進O&Mグループでマネージャーを務める廣田 兼二郎 氏は、次のように語ります。

「HSE ユニットから相談を受けたとき、実現方法は Microsoft Fabric が最適だと考えていました。2023 年 5 月にパブリック プレビュー版が登場したころから Microsoft Fabric には注目していました。これならデータレイクハウスの考え方をクラウドに実装できると感じていたからです。また Microsoft Fabric なら AI を活用した自動化も容易で、社内のリソースで対応が可能でした」。

HSE ユニットからの相談を受けたのは 2024 年 11 月。その翌月にはテスト環境を構築し、実証実験に着手しています。

「Microsoft Fabric にはさまざまな利点がありますが、その 1 つとして挙げるべきなのが、データ処理を 2 パターンで行えることでしょう」と廣田 氏。1 つはノートブックによる処理、もう 1 つはデータフローの処理だと言います。「前者は Python が使えるため柔軟性が高く、後者はノー コードで簡単に処理を実装できます。しかもこれらを 1 つのパイプラインに混在できるため、複雑な処理はノートブック、シンプルな処理はデータフローと、使い分けることができるのです」。

INPEX ESG Data Hub では、産業廃棄物に関しては電子化されたマニフェスト、一般廃棄物に関しては処理業者から受け取る請求書 (PDF) を読み込んでデータ処理していますが、前者ではこの特徴が活かされています。マニフェストでは廃棄物の量が体積で表記されていますが、これを重量に変換するようなシンプルな処理はデータフローを使用し、その後の複雑な集計処理にはノートブックを活用しているのです。

その一方で一般廃棄物のデータ処理では、Azure AI Document Intelligence と Azure OpenAI が組み込まれた Azure Functions で Python コードを動かしています。Microsoft SharePoint に保存された各事業者からのさまざまなフォーマットの PDF を処理し、CSV として出力して Fabric に保存・集計を自動化しています。これが Azure Logic Apps のフローに組み込まれ、月に 1 回起動されています。

廣田 兼二郎 氏, 技術統括本部 O&M・施設ユニット 先進O&Mグループ マネージャー, 株式会社 INPEX

“HSE ユニットから相談を受けたとき、実現方法は Microsoft Fabric が最適だと考えていました。2023 年 5 月にパブリック プレビュー版が登場したころから Microsoft Fabric には注目していました。これならデータレイクハウスの考え方をクラウドに実装できると感じていたからです。また Microsoft Fabric なら AI を活用した自動化も容易で、社内のリソースで対応が可能でした。”

廣田 兼二郎 氏, 技術統括本部 O&M・施設ユニット 先進O&Mグループ マネージャー, 株式会社 INPEX

HSE 部門での処理時間が大幅に短縮し、施策立案や改善提案の時間確保が容易に

Azure で提供される各種 AI の使い勝手について、INPEX 技術統括本部 O&M・施設ユニット 先進O&MグループでAIエンジニアを務める田之口 英史 氏は、次のように語っています。

「たとえば、Logic Apps の処理フローに Document Intelligence と Azure OpenAI を組み込んだ Azure Functions の組み込みなどが簡単に行えました。また Document Intelligence を使えば非構造化データを簡単に Markdown 化できるため、一般廃棄物のようにそれぞれフォーマットが異なる PDF でも、必要なデータを正確に抽出し AI で読み取り指定した形式で出力することで、一括で処理することができます」。

INPEX ESG Data Hub がリリースされたのは 2025 年 3 月。これによって廃棄物集計業務の負担は大幅に軽減されました。

「以前は現場で集計したデータや電子マニフェスト データを HSE ユニットで分類、集計していましたが 、INPEX ESG Data Hub によってこれらの業務がすべて不要になりました。電子マニフェストのデータと、現場から送られた請求書データを、SharePoint Online にアップロードするだけでよくなったからです。HSE ユニットでの業務時間は 1 時間程度にまで短縮されました」 (山本 氏)。

このようにルーティン ワークであるデータ集計業務の負担が軽減したことで、プロジェクト管理などの HSE のメイン業務により多くの時間が使えるようになったことも、重要なメリットだと山本 氏は指摘します。

「HSE ユニットの本来の仕事は、HSE に関する組織の目標を達成するための施策に取り組むことです。しかし以前は、データ集計などのルーティン ワークに多くの時間を費やしていたため、業務の配分に課題がありました。いまでは目の前の業務を行いながら、ほかの業務の効率化に関して議論できるようになりました。たとえば化学物質管理の効率化や、ヒヤリハットをデータで改善する方法などのアイデアがたくさん出てくるようになりました」。

田之口 英史 氏, 技術統括本部 O&M・施設ユニット 先進O&Mグループ AIエンジニア, 株式会社 INPEX

“たとえば、Logic Apps の処理フローに Document Intelligence と Azure OpenAI を組み込んだ Azure Functions の組み込みなどが簡単に行えました。また Document Intelligence を使えば非構造化データを簡単に Markdown 化できるため、一般廃棄物のようにそれぞれフォーマットが異なる PDF でも、必要なデータを正確に抽出し AI で読み取り指定した形式で出力することで、一括で処理することができます。”

田之口 英史 氏, 技術統括本部 O&M・施設ユニット 先進O&Mグループ AIエンジニア, 株式会社 INPEX

INPEX ESG Data Hub から始まった Microsoft Fabric の活用ですが、今後はほかの領域にも拡大していく計画です。

「INPEX で最も大きな海外拠点であるオーストラリアでは、既に Microsoft Fabric によって SAP のオペレーションデータ連携が行われています」と廣田 氏。近い将来にはこのようなしくみも統合し、Microsoft Fabric をグローバルでのデータ基盤にしていきたいと語ります。

「構造化データはデータフローやノートブックによるデータ処理、非構造化データは生成 AI をはじめとした AI による構造化を行うことで、業務の自動化を推進しやすくなるはずです。そのためのデータ基盤として、Microsoft Fabric は重要な役割を果たすと考えています」。

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