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2025/11/25

データ駆動型「デジタル・キャンパス」の実現へ
Microsoft 365 Copilot を活用し、価値創造に挑む室蘭工業大学

室蘭工業大学では、Society 5.0 時代を見据えた「デジタル・キャンパス推進基本方針」を策定し、データを基盤としたキャンパス運営の実現に向けて、さまざまな DX 施策を展開してきました。 AI の可能性には早くから注目していたものの、独自に AI 環境を構築・運用するには多くの課題があり、実装には至っていませんでした。

2023 年 11 月、Microsoft 365 Copilot がリリースされたことにより、既存の業務アプリケーション上で安全かつシームレスに生成 AI を活用できる環境が整いました。 これを契機に、職員有志による実証実験を経て、2025 年 5 月には全事務職員を対象に Microsoft 365 Copilot を本格導入。

セミナーの開催や、Microsoft Loop・Microsoft Teams を活用した事例共有を通じて、学内での活用は着実に広がりを見せています。 現在では、「Microsoft 365 Copilot は業務に欠かせない存在」と語る職員も現れるなど、日常業務に深く根付いています。 さらに、教職員や学生が利用できる Copilot エージェントの開発・実装も進行中で、大学全体での AI 活用の裾野が広がりつつあります。

Muroran Institute of Technology

「デジタル・キャンパス」実現に向けて Microsoft 365 Copilot を導入

国立大学法人室蘭工業大学(以降 室蘭工大)は 1887 年創立の理工系単科大学です。「鉄のまち」室蘭のものづくり精神を受け継ぎ、最新技術の探求と実学重視を理念に掲げ、地域や社会と密着した教育・研究活動を展開しています。

工学系大学として社会実装を重視する同学では、DX を単なる業務効率化にとどまらず、大学の新たな機能や価値を創出するための基盤と位置づけ、2022 年には Society 5.0 を見据えた「デジタル・キャンパス推進基本方針」を策定。機能拡張や新しい働き方の実現に向けて、積極的な取り組みを進めています。

「私たちの目標は、データ駆動型キャンパス『デジタル・キャンパス』の実現です」と語るのは、室蘭工業大学 経営企画課 副課長 / デジタル・キャンパス推進室員の齊藤 雅利 氏。

「これからの時代に必要とされる大学であり続けるためには、デジタル・キャンパスの実現を通して時代の変化に柔軟に対応していくことが不可欠です。具体的には、学内に散在するデータを統合、有効活用することで、これまでになかった知見の創出や、学生向けサービスの高度化といった『新たな価値』を生み出すことが私たちの目指す姿です」(齊藤氏)

そんな室蘭工大がデジタル・キャンパス実現に向けて現在最も力を入れている取り組みが、Microsoft 365 Copilot (以降 Copilot)を始めとした生成 AI の活用です。

「室蘭工大では、デジタル・キャンパス推進基本方針を策定した当初から AI の利活用を見据えていました」と語るのは、齊藤氏とともにプロジェクトを進める室蘭工業大学 経営企画課 経営企画係長 / デジタル・キャンパス推進室員の田嶋 学 氏。しかし 2022 年当初は、室蘭工大のリソースでは AI 環境を内製で構築するのはハードルが高く、AI 活用の早期実現は難しいと考えられていました。

転機となったのは、 2023 年 11 月の Copilot のリリースです。これを知った推進室のメンバーは、大きな関心を持って製品の検証を開始しました。

推進室のメンバーであり、学内のシステム管理を担当する室蘭工業大学 技術部 第一技術室 情報技術チーム 技術員の相馬 達也 氏は、「さまざまな情報を集めるうちに、生成 AI は今後インターネットのように当たり前のインフラとなり、『使うと有利』ではなく『使わないと不利になる』と強く感じるようになりました」と、そのインパクトを語ります。

一方で、学内で生成 AI を使うにあたってはセキュリティの懸念がありましたが、田嶋氏は「Microsoft が入力データを組織内にとどめ、AI の学習に使用しない方針を明確に示したことで、安心して導入を検討できました。『責任ある AI』の原則が、導入の大きな後押しとなりました」と振り返ります。

さらに、室蘭工大では 2022 年に Microsoft 365 A3 を導入済みであったため、日常的に使用しているアプリケーション上で Copilot をそのまま利用できることも高く評価。こうして 2024 年 7 月から、Copilot 導入に向けた検証がスタートしました。

齊藤 雅利 氏, 経営企画課 副課長 / デジタル・キャンパス推進室員, 室蘭工業大学

“Copilot は新しいチャレンジを支えてくれる、まさに副操縦士のような存在だと感じています。”

齊藤 雅利 氏, 経営企画課 副課長 / デジタル・キャンパス推進室員, 室蘭工業大学

試行錯誤を重ねながら Microsoft 365 Copilot の検証を進める

室蘭工大では Copilot の導入に向けて、まずはこれまで DX の取り組みに積極的に参加した実績を持つ職員を各課からピックアップ。彼らにライセンスを付与して、活用を促しました。

「まず、新たなテクノロジーにチャレンジする特別なプロジェクトであることを示すために、キックオフミーティングは、日本マイクロソフトさんとの共催でセミナーを開催しました」と齊藤氏。通常は内製で行っている研修をあえて、日本マイクロソフトとの共催とすることで、参加者に AI の重要性を実感してもらい、モチベーションを高める狙いがあったと明かします。

導入にあたっては、 Copilot の導入支援実績が豊富な、日本マイクロソフトのパートナー企業からノウハウ提供やコミュニティづくりの支援を受けました。

「都市圏の総合大学と比べて規模の小さい室蘭工大に対しても、ここまで手厚いサポートをいただけたのは、とてもありがたいですね」と齊藤氏。室蘭工大と日本マイクロソフトとの連携は、本格導入を迎えた今でも変わらず続いています。

検証プロジェクトは順調に滑り出したように思われましたが、参加者アンケートからは、AI に対して心理的なハードルを感じている職員が想定以上に多いことが明らかになりました。推進室のメンバーである室蘭工業大学 技術部 第一技術室 情報支援チーム 技術専門職員 博士(工学)の三林 光 氏もその一人でした。

「最初のうちは、思ったようなアウトプットが得られなくて、すぐには馴染めませんでした。ですが、推進室のメンバーが使っている様子を見たり、活用事例を参考にしたりするうちに、少しずつ使いこなせるようになっていきました」(三林氏)

参加者のなかには、最初は挑戦してみたものの、思うような結果が得られなかったことでCopilot を敬遠してしまう人も多かったといいます。

「インターネット検索に慣れている人にとって、100% の回答が得られないことがある生成 AI の特性に戸惑ってしまうことがある」と齊藤氏らは分析。次の打ち手として、生成 AI をより身近に感じられる研修プログラムを考案しました。

その研修プログラムは「室蘭工大の公式キャラクター『ムロぴょん』を使った 4 コマ漫画を描いてみる」というものでした。「生成 AI でイラストを出力するためには、いかに適切な表現で情報を伝えるかが重要です。このプログラムは、プロンプト技術の習得に非常に効果的だったと感じています」(田嶋氏)

思いもよらない姿形のムロぴょんが生成されて笑顔が生まれるなど、参加者たちは楽しみながらプロンプトの基礎を学び、自然な流れで業務への活用という次のステップに進めるようになったといいます。

さらに推進室は、業務に役立つプロンプト集や Copilot を活用した業務効率化事例を Microsoft Loop にまとめ、 Microsoft Teams 上で共有する仕組みを構築しました。検証メンバーはそれを参考に自らの業務に応用したり、逆に自分が実証した成果を投稿したりするなど、Copilot の活用の輪は着実に広がっていきました。

田嶋 学 氏, 経営企画課 経営企画係長 / デジタル・キャンパス推進室員, 室蘭工業大学

“Copilot は、自然言語で AI と会話するという最初のハードルさえ越えられれば、誰でもその便利さを体感できるツールだという確信を深めることができました。”

田嶋 学 氏, 経営企画課 経営企画係長 / デジタル・キャンパス推進室員, 室蘭工業大学

本格導入してまもなく、Microsoft 365 Copilot の効果を実感

実証期間を経て、メールの下書き作成や会議の要約といった生成 AI の活用による業務効率化の効果が認められたことから、室蘭工大では全事務部門への Copilot ライセンスの拡大を決定。2025 年 5 月から本格的な導入が進められることになりました。

予算やセキュリティリスクなどの懸念もあるなかで、検証開始から 1 年も経たずに本格導入の道筋が描けた背景には、意思決定層との綿密なコミュニケーションがあったと齊藤氏は振り返ります。

「新しいテクノロジーを組織にどのように浸透させるかは、やはり執行部との信頼関係が鍵になります。私はプロジェクトの推進役として、定期的に執行部とのコミュニケーションを取り、AI の価値や可能性を理解してもらうことに注力しました」(齊藤氏)

齊藤氏によると、導入後すぐに、その効果を実感するできごとがありました。異動してきたばかりの室蘭工業大学 経営企画課 経営企画係員 デジタル・キャンパス推進室員の泉 颯汰 氏が、Microsoft Copilot Studio を使ってほぼ独力で広報文案作成 Copilot エージェントを開発したのです。

「イベント開催時、担当職員はホームページ用の広報文作成が必要で、内容の魅力や大学らしい表現にも配慮するため、慣れていても 20 分~ 30 分かかっていました」と田嶋氏が説明するとおり、広報文の作成は職員にとって少なからぬ負担になっていました。

泉氏が開発した Copilot エージェントを使えば、基本情報を入力するだけで、数分で高品質な広報文案が作成できるようになりました。

泉氏は、異動前は生成 AI 未経験でしたが、Copilot の研修後すぐに「この業務は自動化できる」と考え、即座に形にできたといいます。「私たちの世代はスマートフォンやチャットでのやり取りが当たり前の環境で育ってきましたので、生成 AI にも抵抗がなく、『試しに作ってみたらできた』という感覚でした」(泉氏)

「泉は新しいものに抵抗がなく、Copilot を使った業務にもすんなりと馴染んでそのメリットを享受しています。Copilot は、自然言語で AI と会話するという最初のハードルさえ越えられれば、誰でもその便利さを体感できるツールだという確信を深めることができました」(田嶋氏)

泉 颯汰 氏, 経営企画課 経営企画係員 / デジタル・キャンパス推進室員, 室蘭工業大学

“私たちの世代はスマートフォンやチャットでのやり取りが当たり前の環境で育ってきましたので、生成 AI にも抵抗がなく、『試しに作ってみたらできた』という感覚でした。”

泉 颯汰 氏, 経営企画課 経営企画係員 / デジタル・キャンパス推進室員, 室蘭工業大学

業務での活用が進み、Copilot エージェント開発にも着手

泉氏だけでなく、いまや推進室のメンバーのほとんどが Copilot を業務で活用しています。

「Copilot に私のアシスタントのような人格を与えて、検索や思考の壁打ちのやりとりをしています。日常のなんでもない業務でも相談する習慣がつきました」と語るのは、導入当初は壁を感じていた三林氏。もはや Copilot は業務上不可欠な存在になりつつあるといいます。

相馬氏も、「システムに関する問い合わせの中には、調べなければ回答を導けない場合もありますが、Copilot に該当のエラーコードを入力すると、インターネット検索より的確な回答を即座に返してくれます。おかげで対応は格段と楽になりました」とそのメリットを実感しています。

「私も先日、大学で実施するオープンキャンパス業務の改善に向けて、馴染みのないプログラミング言語で簡易的なシステム構築にチャレンジしてみました」と齊藤氏。Copilot との何度かのやり取りで、スムーズにシステムを構築することができたそうです。「Copilot は新しいチャレンジを支えてくれる、まさに副操縦士のような存在だと感じています」(齊藤氏)

現在推進室では、職員への Copilot の利用促進と並行して、教職員や学生が便利に使えるAI エージェントの開発にも着手しています。前述の広報文案生成 Copilot エージェントはまもなく職員向けにリリースされる予定です。田嶋氏が開発した就職活動支援 Copilot エージェントは、すでに活用が始まっています。

この就職活動支援 Copilot エージェントは、学生がアップロードしたエントリーシートの内容や Web の情報に基づいて質問を自動生成し、その質問に学生が音声で回答することで面接練習が出来る仕組みです。さらに、過去のデータと照らし合わせて自分の回答をブラッシュアップすることもできます。

「室蘭工大のキャリア サポートセンターは、限られたリソースの中で運営されており、手厚い支援が難しい状況でした。その状況を少しでも改善できればと考えてこのエージェントを開発しました」と田嶋氏。開発に際しては、いくつもの Microsoft 365 Copilot Chat に特性の異なる学生の役割を与え、それぞれに対してエージェントが適切な質問が生成できるかどうかをチェックし、改善する手法を採用したそうです。

「改善のためのプロンプトも Copilot に出力させて、必要があれば調整を加えて試すという作業を繰り返しました。私の場合、このエージェントに限らず、なにか新しいものを作るときには、すべての開発過程において Copilot と相談しながら進めるのが当たり前になっています」(田嶋氏)

相馬 達也 氏, 技術部 第一技術室 情報技術チーム技術員 / デジタル・キャンパス推進室員, 室蘭工業大学

“さまざまな情報を集めるうちに、生成 AI は今後インターネットのように当たり前のインフラとなり、『使うと有利』ではなく『使わないと不利になる』と強く感じるようになりました。”

相馬 達也 氏, 技術部 第一技術室 情報技術チーム技術員 / デジタル・キャンパス推進室員, 室蘭工業大学

さらなる普及・活用を目指してアンバサダー制度を導入

推進室のメンバーが Copilot を使いこなし始めている一方で、他の部署での活用状況にはまだばらつきがあると齊藤氏。現在、Copilot をより広く普及するための「DX 推進アンバサダー制度」を創設して、推進室と現場をつなぐ架け橋になってもらうプロジェクトを進めています。

「Microsoft 認定導入支援パートナーさんに支援していただきながら、仕組み作りを進めています。私たちからアンバサダーに情報共有を行い、それぞれの課に戻ってその情報を広めてもらう。さらに現場の困りごとなどを吸い上げて私たちに伝えてもらう。そんな役割を期待しています」(齊藤氏)

アンバサダーは本業と並行して活動することになりますが、推進室ではその負担を最小限に抑えられるよう、情報提供やサポート体制の整備にも力を入れています。

「新しいことに挑戦するには、多くのエネルギーが必要ですが、その経験が個人の成長や大学全体の価値創出につながると信じています。アンバサダーの皆さんには、楽しみながら、前向きに取り組んでもらえたらと思っています」(齊藤氏)

「今回の生成 AI プロジェクトに限らず、室蘭工大では『新しいことに挑戦する姿勢』を評価する文化を醸成しようとしています」と齊藤氏。室蘭工大では数年前から「GOOD ACTION シェアリング」というイベントを通して、成功事例だけでなく、失敗しても新しいことに挑戦した事例を共有して、その行動自体を称える取り組みを行っています。「新たな価値を生み出すためには、まず挑戦することがなによりも大切です」と齊藤氏は言葉に力を込めます。

大学としての価値を高めるためにチャレンジ精神を磨き続けることが大切

デジタル・キャンパス推進室の皆さんによると、学内のさまざまな情報を参照して質問に回答するエージェントの開発など、現在も多くの Copilot 活用プロジェクトが並行して進められているとのことです。今のところ Copilot のライセンスは職員に限定されていますが、 Copilot Chat は教員や学生でも使えるため、「より多くの人が便利に使える仕組みを今後さらに整えていきたい」と齊藤氏は展望を語ります。

「大学という組織には、教員が事務手続きなどの雑務にリソースを取られてしまい、本来注力すべき業務である研究や教育に十分なリソースを割けないという課題があります。また、室蘭工大のような小規模の大学では、学生サービスに割けるリソースも限界があります。そういった状況を少しでも改善するために、Copilot を活用していきたいと考えています」(齊藤氏)

「一人の職員に一つの専用 AI エージェントがついて、そのエージェントが他のエージェントとつながり、さまざまな困りごとを解決してくれる。そんな世界を実現したいですね」と田嶋氏。相馬氏は「技術的な制約やルールづくりなど課題は多いですが、学内に散在するデータを一括管理して AI で処理できるようになるのが理想だと考えています」と、デジタル・キャンパスの目指す未来を描きます。

三林氏は、「生成 AI は、インターネットでいえばまだパソコン通信の時代のような黎明期だと思います。この先、AI が自発的に私たちを助けてくれるような未来がくるかもしれませんね」と、まだまだ伸びしろの大きいこの技術に期待を抱いています。

泉氏は「Copilot がなければ、知識のない私が一人でエージェントを作ることもなかったと思います。」と導入の意義を強調。「アイデアはたくさんあるので、もっと使いこなせるようになりたいですね」と抱負を語ってくれました。

最後に齊藤氏から日本マイクロソフトに対して、「先進技術が都市圏の大規模大学だけに導入されるのではなく、私たちのような地方の小規模大学にも届くことで、初めて日本全体の教育や研究の底上げにつながると考えています。そうした中で、室蘭工業大学のような地方大学にも Copilot のような先進技術を活用する機会、ご支援をいただけたことに、心から感謝しています。今後も、全国の教育現場に目を向けたご支援をいただけると大変ありがたいです」とメッセージが送られました。

チャレンジ精神を重んじて新たな挑戦を続ける室蘭工大の高い視座に改めて触れることができ、私たち日本マイクロソフトも Microsoft 認定導入支援パートナーと共に最適なソリューションとサポートをご提供し続けることを改めて肝に銘じる、得がたい機会となりました。

三林 光 氏, 技術部 第一技術室 情報支援チーム 技術専門職員 / デジタル・キャンパス推進室員 博士(工学), 室蘭工業大学

“生成 AI は、インターネットでいえばまだパソコン通信の時代のような黎明期だと思います。この先、AI が自発的に私たちを助けてくれるような未来がくるかもしれませんね。”

三林 光 氏, 技術部 第一技術室 情報支援チーム 技術専門職員 / デジタル・キャンパス推進室員 博士(工学), 室蘭工業大学

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