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2026/08/04

SOMPOシステムズが Microsoft Foundry でエージェンティック RAG 基盤を構築、ナレッジ探索時間 90% 削減を見込む

SOMPOグループの基幹システムを担う SOMPOシステムズでは、IT コスト削減と開発・運用生産性の向上が重要課題でした。社内に散在するドキュメント探索に多くの時間を要しており、全文検索システムを導入したものの、適切なキーワードを知らない新規参画者には活用が難しいという課題が残っていました。

この課題を解決するため、AI を活用したDHP (Document HUB Platform) を構築しました。社内文書、基幹系ソース コード、チケットや Slack 会話履歴などを 1 つの情報ハブに集約し、AI によって必要なナレッジへ自然にたどり着ける仕組みを整備。Azure と Microsoft Foundry を基盤に、DocOps と情報の民主化を推進しています。

Azure と Foundry を活用することで、短期間での DHP 構築を実現しました。非機能要件を Azure に委ねることで運用負荷を抑えつつ、Foundry により多様な LLM や AI ツールとの連携も可能にしています。2026 年 3 月の提供開始後、利用者は口コミで急速に拡大し、情報探索時間を最大 90% 削減できる見込みです。今後は AI 駆動開発の基盤としての活用も視野に入れています。

Sompo Systems

生産性を高めるため散在しているドキュメントのナレッジ化に着手

約 130 年の歴史を持ち国内損害保険事業などを展開する、SOMPOグループの基幹システムを担っている SOMPOシステムズ株式会社 (以下、SOMPOシステムズ)。2016 年には「未来革新プロジェクト」に着手し、1980 年代から約 40 年間使い続けてきた膨大なレガシー システムを刷新。次世代の基幹システム「SOMPO-MIRAI」を構築し、2021 年から運用を開始しています。また旧基幹系基盤の一部では Azure を活用したプライベート クラウド基盤も利用するなど、モダン アーキテクチャと既存の COBOL 資産を適材適所で活かしながら、幅広い開発・運用を行っています。

ここで重要な課題になっていたのが、これらのシステムの開発・運用に必要なナレッジを、いかにして迅速に入手できる仕組みを構築するか、ということでした。

「2024 年の中期経営計画では開発・運用の生産性を高めるための『改革プラン』が提示され、年間数百億円の IT コスト削減が求められました」と語るのは、SOMPOシステムズ アーキテクト本部 R&Dグループで部長を務める豊島 直樹 氏。未来革新プロジェクトの開発生産性を爆速的に上げていくと共に、これと並行して稼働する旧システムでも、開発や保守維持コストを削減していくことが必要になったのだと説明します。

この要求に応えるため「散在しているドキュメントをナレッジ化するための全文検索システムの構築を 2024 年 10 月にスタートしました」と言うのは、SOMPOシステムズ ITインフライノベーション本部でフェローを務める小路 智広 氏。そのわずか 2 か月後には提供を開始していると語ります。

「SOMPOシステムズでは基幹系システムだけでも、旧メインフレームと旧オンライン システム、SONPO-MIRAI を並行して開発・維持しています。開発生産性はこれらに関するドキュメントを、どれだけ迅速かつ的確に検索できるかにかかっている、ということがわかっていました。そこでまずは Azure の IaaS 上で、全文検索システムを構築することにしたのです」。

しかしこれを効果的に活用するには、検索したい「キーワード (単語) 」を知っている必要があります。そのため本来最も活用してほしい新規参画者には、なかなか使いこなせないという問題があったと小路氏は振り返ります。

豊島 直樹 氏, アーキテクト本部 R&Dグループ 部長, SOMPOシステムズ株式会社

“Foundry は、AI をどう組むかという設定をマネージド サービスで簡単に行うことができ、ローコードで非常に早くシステムを構築できる点が優れています。また当社のグループウェアが今後 Microsoft 365 に移行されることを鑑み、AI に必要なリソース (分析するためのドキュメントなども含めて) が Microsoft のクラウド上に集まる傾向になることから、当システムのインフラを Azure 上に乗せることが効率的であると考えたことも、採用理由の 1 つです。3 か月サイクルで成果を出していくといったスピード感が求められていたので、少ない改修で新たな機能やサービスを展開できることも大きなメリットでした。”

豊島 直樹 氏, アーキテクト本部 R&Dグループ 部長, SOMPOシステムズ株式会社

Microsoft Foundry をベースにした「エージェンティック RAG」で情報民主化の実現へ

この問題を解決するために着手されたのが、AI を活用した「DHP (Document HUB Platform) 」の構築でした。社内に散在する文書や基幹系ソース コード、会話履歴などを 1 つの情報ハブに束ねることで「DocOps」を実現すると共に、その上で各種 AI を活用することで、誰でも迅速に必要なナレッジにたどり着ける「情報の民主化」の実現が目指されたのです。

そのための基盤として採用されたのが、Azure と Microsoft Foundry です。その理由について、豊島 氏は次のように説明します。

「Foundry は、AI をどう組むかという設定をマネージド サービスで簡単に行うことができ、ローコードで非常に早くシステムを構築できる点が優れています。また当社のグループウェアが今後 Microsoft 365 に移行されることを鑑み、AI に必要なリソース (分析するためのドキュメントなども含めて) が Microsoft のクラウド上に集まる傾向になることから、当システムのインフラを Azure 上に乗せることが効率的であると考えたことも、採用理由の 1 つです。3 か月サイクルで成果を出していくといったスピード感が求められていたので、少ない改修で新たな機能やサービスを展開できることも大きなメリットでした」。

このような基本方針のもと、SOMPOシステムズは構築パートナーとして、株式会社Re-grit Partners (以下、Re-grit) を選定。その最大の理由は、提案力と AI リテラシーの高さでした。社内の開発プロセス資料を渡して提案を求めた際に、他のコンサルティング会社のようにコンセプトや PoC の提案から入るのではなく、わずか数日で「エージェンティック RAG ならこのようなプロセス変革が可能」という、具体的かつ直球の提案が返ってきたのです。

これだけ短時間で具体的な提案できた理由について、Re-grit で Managing Director を務める木村 考博 氏は、次のように説明します。

「SOMPOシステムズ様からお話をお伺いした際に、すぐ『エージェンティック RAG』を提案すべきだと考えました。これは生成 AI と RAG で開発ライフサイクルを変革するというアプローチであり、開発者が入れ替わってもナレッジを継承しやすくなります。これをすぐに提案できたのは、当社で以前から研究を進めていたからです。また Microsoft Foundry なら、その実現が容易だということもわかっていました」。

木村 考博 氏, Managing Director, 株式会社Re-grit Partners

“SOMPOシステムズ様からお話をお伺いした際に、すぐ『エージェンティック RAG』を提案すべきだと考えました。これは生成 AI と RAG で開発ライフサイクルを変革するというアプローチであり、開発者が入れ替わってもナレッジを継承しやすくなります。これをすぐに提案できたのは、当社で以前から研究を進めていたからです。また Microsoft Foundry なら、その実現が容易だということもわかっていました。”

木村 考博 氏, Managing Director, 株式会社Re-grit Partners

少ないオペレーションで RAG を構築可能、最初の成果物はわずか 2 週間で提出

AI 活用の基盤としてあらかじめ Azure や Foundry を選定しておいたことは、その後のシステム構築迅速化にも大きな貢献を果たしています。これに関しては Re-grit で Engagement Manager を務め、実際にシステム構築を手掛けた田中 伸樹 氏が、次のように語っています。

「Azure はマネージド サービスが充実しており、高いスピード感で実際のシステムを構築・提供できます。打ち合わせでは毎回動くものを出すという方針で取り組みましたが、Foundry なら少ないオペレーションで RAG を構築できるため、2 週間以内で『SOMPO-MIRAI』のガイドライン情報を組み込んだ RAG のモックアップをお出しし、そこからすぐ精度向上への取り組みを始められました。Foundry の Control Plane を利用することで、マネージド サービスでありながら開発時のデバッグが容易であり、開発を滞りなく進めることができました」。

システムの構成は図に示すとおりです。

まず「インプット パイプライン」で各種システム / サービスにある文書や会話などを抽出 / 加工 (前処理) し、プロジェクト単位でパーティショニングした上で、知識エリア (検索データベース) に格納。ユーザーが質問を行うと、Foundry をベースに構築されたコントロール エリア (マルチエージェント RAG) が質問の意図を解析し、適切な検索対象を選択して検索・根拠抽出を行います。最後に、取得した内容を「関連度」「信頼度」で評価した後、確度の高い情報を優先して回答を生成します。

ここで精度向上の鍵を握っているのが、インプット パイプラインの処理だと田中 氏は指摘します。混沌としたデータをそのまま生成 AI にわたすのではなく、文脈に配慮した「セマンティック チャンキング (意味が伝わる形でのデータ分割) 」を行うことが重要なのだと説明します。またドキュメント オーナーが内容を承認した有効期限内の情報に限定し、古い情報や承認前の情報を排除することも、ハルシネーションなどを防ぐ上で重要なポイントだと言います。

「RAG は本来、目的や対象業務に応じて設計すべきものです。だからこそ今回は、特定用途向けにモデルをチューニングするのではなく、複数の情報領域へ展開できる汎用的な基盤にすることを重視しました」と小路 氏。ノイズの少ない情報源を整備し、文脈に応じたチャンキングや検索対象の選択を行うことで、モデル自体を個別にチューニングしなくても一定の品質を出せる構成を目指したのだと語ります。

田中 伸樹 氏, Engagement Manager, 株式会社Re-grit Partners

“Azure はマネージド サービスが充実しており、高いスピード感で実際のシステムを構築・提供できます。打ち合わせでは毎回動くものを出すという方針で取り組みましたが、Foundry なら少ないオペレーションで RAG を構築できるため、2 週間以内で『SOMPO-MIRAI』のガイドライン情報を組み込んだ RAG のモックアップをお出しし、そこからすぐ精度向上への取り組みを始められました。Foundry の Control Plane を利用することで、マネージド サービスでありながら開発時のデバッグが容易であり、開発を滞りなく進めることができました。”

田中 伸樹 氏, Engagement Manager, 株式会社Re-grit Partners

口コミでユーザーが急速に増大、情報探索時間 90% 減を見込む

DHP の検討開始は 2025 年 10 月。それからわずか 5 か月後の 2026 年 3 月には、「SOMPO-MIRAI」のガイドライン情報を載せた状態で、DHP の提供を開始しています。

取材したときはそれからまだ 2 か月しか経過していませんでしたが、ユーザーからは高い評価を受けているようです。これに関して、SOMPOシステムズ 損保システム第二本部で副本部長を務める小柳津 恵 氏は、次のように語っています。

「今はまだ『SOMPO-MIRAI』のガイドラインだけを載せた状態ですが、社内の SOMPO-MIRAI 開発メンバーの 7 割が日々活用しており、そこから口コミが広がった結果、パートナー企業での利用も急速に増えています。すでに 2,100 ユーザーが利用可能になっていますが、今後は DHP に取り込む情報の範囲を拡大することで、最終的に最大 6,000 ユーザーが使う基盤になる予定です。情報の探索時間は 1 件あたり 90% 削減する効果を見込んでいます」。

ここで重要なのが、プロジェクトの全体像や専門用語がわからない新規参画者でも、迅速に必要なナレッジへとたどり着けることです。これは SOMPOシステムズで新人を採用した際のみならず、外部ベンダーに保守を移管する際にも、オンボーディングを劇的に下げる効果を発揮すると期待されています。

またダッシュボードで質問ログを分析し、ユーザーが頻繁に求めている情報や不足しているドキュメントを特定して、ナレッジの追補へとつなげる「継続的なフィードバック ループ」が回り始めていることも、見逃せないポイントだといえるでしょう。単なる検索ツールではなく、業務の構造的課題を解決する基盤として位置づけられているのです。

小柳津 恵 氏, 損保システム第二本部 副本部長, SOMPOシステムズ株式会社

“今はまだ『SOMPO-MIRAI』のガイドラインだけを載せた状態ですが、社内の SOMPO-MIRAI 開発メンバーの 7 割が日々活用しており、そこから口コミが広がった結果、パートナー企業での利用も急速に増えています。すでに 2,100 ユーザーが利用可能になっていますが、今後は DHP に取り込む情報の範囲を拡大することで、最終的に最大 6,000 ユーザーが使う基盤になる予定です。情報の探索時間は 1 件あたり 90% 削減する効果を見込んでいます。”

小柳津 恵 氏, 損保システム第二本部 副本部長, SOMPOシステムズ株式会社

DHP を起点に、AI 駆動開発を支える基盤へ発展

今回構築した DHP のシステムについて、小路 氏は次のように語っています。

「Azure のマネージド サービスと Foundry のローコード機能によって、構築コストを大幅に抑えることが可能になりました。また、今後より優れた LLM や AI ツールが登場した際にも、それらを柔軟に取り込める拡張性を確保しやすいことも大きなメリットです。重要なのは、現時点でどの LLM やツールが優れているかに固定されることではありません。目的に応じて最適なものを選択し、継続的に進化させられる基盤を持つことなのです」。

また、観測性やスケーリング、セキュリティ更新などの非機能要件を Azure 側に寄せることで、運用コストの削減も可能になると指摘します。田中 氏も、「Microsoft Unified サポートの助言によって、実行環境の性能を引き出しやすくなり、システム環境の IaC 化も実現できました」と述べています。

すでに実運用に入り大きな効果を発揮し始めている DHP ですが、SOMPOシステムズは DHP の開発だけにとどまらず、AI 駆動開発や COBOL 生産性向上の取り組みを組み合わせた開発業務の変革を目指しています。

この実現に向け、SOMPOシステムズでは「Mainframe Lineage Navigator “M@Lina”(マリナ)」を独自に開発し、すでにローンチしています。M@Lina は、COBOL ソースやデータの依存関係 (リネージ) を可視化し、システム改修に伴う影響調査を支援するものです。

DHP の精度向上を追求し続けるだけではなく、M@Lina による依存関係の可視化や影響調査支援を組み合わせることで、開発者の生産性をさらに高めることを目指しています。DHP にはすでに COBOL のドキュメントが取り込まれており、今後は M@Lina によって得られたリネージ情報と DHP の情報を GitHub Enterprise Cloud に集約し、AI 駆動開発の土台として活用していくことも視野に入れています。

なお、M@Lina は Azure App Service と Azure SQL Database を活用して構築されています。さらに、M@Lina や DHP、GitHub Enterprise Cloud を通じて得られた成果物や生成されたドキュメントを再び DHP / RAG の知識基盤にフィードバックする循環を作り出すことで、AI 駆動開発の強化を図っていく想定です。

「目指しているのは、開発の全工程に AI を組み込むことです」と豊島 氏。DHP によって正本化された質の高いドキュメントは、AI 駆動開発を支える重要な土台なのです。

小路 智広 氏, ITインフラインノベーション本部 フェロー, SOMPOシステムズ株式会社

“Azure のマネージド サービスと Foundry のローコード機能によって、構築コストを大幅に抑えることが可能になりました。また、今後より優れた LLM や AI ツールが登場した際にも、それらを柔軟に取り込める拡張性を確保しやすいことも大きなメリットです。重要なのは、現時点でどの LLM やツールが優れているかに固定されることではありません。目的に応じて最適なものを選択し、継続的に進化させられる基盤を持つことなのです。”

小路 智広 氏, ITインフラインノベーション本部 フェロー, SOMPOシステムズ株式会社

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