Hannover Messe 2025 振返りセミナー ~AIの実用例と製造業への応用【セミナーレポート】
2025 年 6 月 18 日(水)、日本マイクロソフトは品川本社にて、生成 AI による製造業の業務課題解決をテーマにしたセミナー「Hannover Messe 2025 振り返りセミナー〜最新 AI の実用例と製造業への応用」を開催しました。
セミナーは 2 部構成で行われ、第 1 部ではマイクロソフトより、製造業における生成 AI 活用の実情と世界最大級の製造業会の展示会「Hannover Messe 2025」での各社の様子を紹介。続く第 2 部では、パートナー企業 4 社が製造業の現場の変革を支えるソリューションを発表しました。本稿では、当日のセッションの概要を紹介します。
【第1部】「製造業における生成 AI の実装の現状」

はじめに、マイクロソフトの鈴木靖隆が、2025 年 3 月 31 日から4 月 4 日にドイツにて開催された「Hannover Messe 2025」の様子を振り返りながら、製造業における生成 AI の実装状況について解説しました。
まず、わずか 1 年で、生成 AI を実際のビジネス プロセスや製品・サービスに搭載し始めた企業が増加していると説明。さらに、ユーザーの意図をくみ取り、自律的にタスクを進める AI の活用や、推論モデルを用いた高度な調査タスクを行うエージェントが普及していると述べました。
「1 年ほど前までは、チャット形式でプロンプトを入力するスタイルが主流でした。しかし、最近はエージェントとしての活用が一般的になってきたと思います」(鈴木)
続いて、マイクロソフトが提供する新たなサービス「Microsoft Discovery (マイクロソフト ディスカバリー)」が紹介されました。これは、創薬や材料開発といった科学的な検証プロセスに生成 AI を活用するものです。
※本記事の公開時点では、Microsoft Discovery 機能はインサイダー プレビュー中です。
ナレッジの収集、仮説の立案、HPC を用いたシミュレーション、結果の評価・解析といった科学的な推論ループを、AI エージェントが支援します。鈴木は「人間が数千通りの組み合わせを試行していたプロセスを、AI がスクリーニングし、効率化することが目的です。研究開発に携わる事業部の業務効率化に貢献できると思います」と紹介しました。

【Hannover Messe 2025 での事例紹介】
■Schneider Electric 社の事例
Hannover Messe 2025 の展示から、Schneider Electric 社の事例が紹介されました。
同社は、生産ラインの制御のシーケンス全体に生成 AI を適用。過去のデータや知識、図面、仕様書を読み込ませることで、Copilot がプロセスに応じたコードを生成し、シーケンスに入れるべき情報の提案も可能です。生成 AI を使い、制御プログラムやプロセス全体のシーケンスを自動生成し、業界のベストプラクティスを活用しています。「現在は人間の許諾を得てからインターフェースしていますが、精度次第で自動化も視野に入ると思います」と鈴木は感想を述べました。

■EPLAN 社の事例
続いて紹介されたのは、EPLAN 社の AI エージェントを用いた提案業務の自動化です。顧客の要望に応じたサーバー構成や配線図、ラック内の設計図などを次々に生成することで、顧客提案設計のスピードを大幅に向上させています。経験が浅いエンジニアでも最初の設計を行えるようになるため、スキルギャップを埋めることにも役立ちます。

■Sanctuary AI 社の事例
次に、マイクロソフトが支援するスタートアップ、Sanctuary AI 社の事例が紹介されました。ロボットアームの動作精度向上のため、強化学習と生成 AI を組み合わせてアルゴリズムの最適化を図ります。動作パターンのスクリーニングや繰り返し調整を AI が担うことで、短期間での精度向上を実現します。

■Husqvarna 社の事例
最後に、Hasqvarna 社の製造設備の AI 利用について解説。同社は製造現場で、アームにカメラを取り付けたロボットを活用し、部品検査をビジョン AI で行っています。さらに、現場サーバーで処理しつつ、クラウド側にもほぼリアルタイムでデジタルツインを同期。NVIDIA Omniverse とも連携し、実機とデジタルの双方向での可視化と制御を可能にしています。

鈴木は「製造業の現場におけるデータ活用の課題とそれに対するマイクロソフトの技術的支援とビジョン」について語り締めくくります。「日本の多くの製造現場では、装置ごとのデータが分断されていたり、人が持つナレッジと装置の時系列データが統合されていなかったりと、データ活用には依然として課題が残っています。マイクロソフトは、こうした分断を補い、現場とクラウドをつなぎながら、予測的・即応的な運用を可能にする『Adaptive Cloud』の概念を通じて、現場の変革を支援していきたいと考えています」(鈴木)
【第2部】Industrial AIパートナー企業4社によるプレゼンテーション

第 2 部の冒頭、マイクロソフトの清水豊が次のように挨拶をしました。
「本日お越しいただいたパートナー様の多くが、すでに Copilot や AI エージェントを導入・活用していると思います。これからの課題は、それらをどのように進化させ、どう組み合わせて業務に最適化していくかという点だと考えています。Copilot エージェントは、自律的なリサーチや意思決定まで担えるレベルに進化しています。設計データに対して改善提案を行う、複数案を自動生成するといった機能もすでに実用段階にあります。そして、私たちは設計・生産・品質といった複数の AI エージェントが連携し、自律的に課題を発見・解決していく『マルチエージェント』の世界をパートナー様たちと構築したいと考えています。実際、Hannover Messe 2025 ではすでに多くのマルチエージェントが稼働しており、その姿を目の当たりにしました。本日はその中から、弊社と共同展示を行った 4 社のパートナー企業にご登壇いただきます。各社のソリューションを通じて、より具体的な活用イメージをお持ちいただければと思います」(清水)
パートナー企業4社が登壇。製造業のおける生成 AI の実用例について発表しました。
【発表企業】
1.シーメンス株式会社
2. アバナード株式会社
3. Cognite株式会社
4. Rescale Japan株式会社
1. シーメンスの生成 AI の実用例

はじめに登壇したシーメンスは、製造業における AI 活用の現状とバリューチェーンの各工程で活躍するインダストリアル・コパイロットについて紹介しました。
製造業界では、AI を信頼できないと感じる人が 4 割にのぼり、導入を目指しても人材不足に直面している企業が多いといいます。こうした課題に対し、シーメンスは「信頼性」「セキュリティ」「目的に応じた活用」を重視し、現場で実用できる AI ソリューションの開発を進めています。

たとえば設計開発においては最新のクラウド 3D CAD「NX X」に Copilot を搭載し 、自然言語で質問をすると回答が得られ、設計のアドバイスなどをしてくれます。生産工程では、ロボットの動作シミュレーションで干渉箇所を自動検出し分析、修正方法を指示。さらに、現場のスマートフォンからの報告内容を翻訳・解析し、PLMの Teamcenter 経由で設計拠点に即時連携するなど、サービス面でも Microsoft Teams との連携により遠隔対応を実現しています。
最後に「今後もマイクロソフトと協力しながら、製造業に特化した AI の開発と普及を進め、サステナブルなものづくりの実現を目指します」と締めくくりました。
2. アバナードの生成 AI の実用例

続いて、アバナード株式会社は、AI エージェント技術を活用した自律的な生産・設計開発・物流支援を進めていることを紹介しました。
生産・製造においては、設備データや MES(Manufacturing Execution System)の情報を AI が分析し、品質問題の兆候を早期に検知。原因の把握から過去の対策ナレッジの検索・提案までをエージェントが担い、現場の迅速な意思決定を支援します。未知の異常パターンの予測とアラートや、適切な発注・出荷タイミングの判断、設計業務の支援なども可能です。
続いて、Hannover Messe 2025 での展示について解説しました。同社は、簡単な組立作業を模した生産ラインのモデルを用いて、AI エージェントが生産指示の発行から監視・制御・フィードバックまでを担うデモンストレーションを実施。AI がリアルタイムで歩留まりや生産効率を計算し、作業者の特性に応じて作業時間の調整提案を行うなど、個別最適化にも対応できる様子を公開しました。
さらに、チャット形式で生産状況の確認や問題の原因特定・対策提案が可能な「会話型エージェント」の開発事例や、過去のナレッジと連携して外観検査の異常を分析・改善提案につなげるソリューションも提示されました。

3. Cognite の生成 AI の実用例

続いて登壇した Cognite株式会社は、同社が提供する産業データ& AI 統合基盤「Cognite Data Fusion」と、生成 AI によるエージェント ソリューション「Cognite Atlas AI 」の活用について紹介しました。
製造現場では、設備データやセンサーデータ、図面、検査記録などの情報が部門ごとに最適化されたシステムに分散しており、統合的な活用が困難だと指摘。Cognite Data Fusion では、こうしたバラバラなデータを抽出・統合し、コンテキスト化することで、AI による分析や意思決定支援を可能にしています。たとえば、設備データと図面、3D モデルなどが紐付けされることで、連鎖的にデータを取得し、活用することができます。
さらに、信頼できる知見を提供し、複雑なタスクを自動化する「 Cognite Atlas AI 」についても解説。Cognite Atlas AI は、大規模言語モデルを使用しており高度な言語理解ができ、CDF に構築されたデータを使って信頼できる結果を提供してくれるうえ、自律的に業務タスクを実行してくれます。
同社は、すでに主要な産業企業が Cognite Atlas AI を導入していると解説し、RCA プロセスの迅速化や複雑な技術文書のオンボーディングにかかる時間の削減、デジタル トランスフォーメーションの取り組みを加速した事例などを紹介しました。機械故障の根本原因分析にアトラス AI を導入し、70% 以上の効率化を実現したとも説明しました。
最後に「こうした取り組みにより、意思決定の迅速化と生産性の向上に貢献しています。今後も産業データの活用をさらに加速して、デジタル トランスフォーメーションを支援していきたいです」と述べました。

4. Rescale Japan の生成 AI の実用例

最後に登壇したRescale Japan 株式会社は、製造業におけるスピードとイノベーションの重要性を強調しました。
新製品のスピーディーな開発・市場への投入のためには AI などの最先端技術を利用する必要があると考えている企業が多いものの、現状のツールでは課題解決への貢献が困難だと指摘。その原因は、知識の断片化や AI 導入の難しさによる、シミュレーション環境の分断と欠如にあると述べました。

同社は、これらの課題に対応するために、「シミュレーション」、「データ」、「AI」を統合的に活用できるクラウドベースのプラットフォーム「Rescale」を提供しています。同社のプラットフォームは、1200 以上のアプリケーションに対応し、Microsoft Azureをはじめとする主要なクラウド環境とも連携。計算資源をスケーリングし、そのデータを元にワークフローを自動化、さらに、スケーリングされたデータの自動的な組織化、分析・洞察も可能です。そして、解析結果を蓄積・整理することで、AI モデルの学習・構築が可能となり、最適化や予測解析など、設計プロセスのさらなる高度化を実現します。
また、Azure AI Foundry との連携により、プラットフォームで得られた構造化データは自然言語による検索や解析が可能。たとえば「圧力と温度の関係を一覧にしてほしい」といった問いかけに対し、該当データを抽出して表形式で提示したり、設計制約や過去の条件を文脈に応じて表示したりできると解説しました。
Rescale は、こうした取り組みを通じて、シミュレーションと AI を融合させた開発プロセスの加速と、製造業の DX を支援していくと締めくくりました。
セミナー終了後には、参加者と登壇者が参加する懇親会と登壇企業による展示ブースにて情報交換や質疑応答が行われました。参加者と企業担当者の間で活発な対話が交わされ、盛況のうちに本イベントは締めくくられました。



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