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業界

DX から AX の時代へ。金融機関で生成 AI はどのように活用されるのか

2024 年 3 月 5 日から 8 日まで、東京の丸ビルで日本経済新聞社と金融庁が主催する「FIN / SUM2024 (フィンサム 2024) 〜“幸福”な成長をもたらす金融」が開催されました。

テクノロジーの進化により大きく変わりつつある、金融業界。同イベントでは、AI をはじめとした最先端の技術を活用する企業や識者が登壇し、それぞれの取り組みを紹介しました。マイクロソフトは、初日の 5 日に生成 AI の金融機関における取り組みについて 2 つのセッションを実施。本稿では、イベントの様子を抜粋してレポートします。

講演: Generative AI が変える金融機関の未来 ~Microsoft Japan will Empower and Copilot Your Growth~

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「Generative AI が変える金融機関の未来 ~Microsoft Japan will Empower and Copilot Your Growth~」と題した講演では、日本マイクロソフト 代表取締役 社長 津坂 美樹、業務執行役員 金融サービス事業本部 銀行・証券営業本部長 金子 暁、一般社団法人金融データ活用推進協会(FDUA)代表 岡田 拓郎氏の 3 名が登壇。生成 AI の可能性や金融機関における利活用シナリオ、ガイドラインの作成について紹介しました。

【登壇者】

・日本マイクロソフト 代表取締役 社長 津坂 美樹
・日本マイクロソフト 業務執行役員 金融サービス事業本部 銀行・証券営業本部長 金子 暁
・一般社団法人金融データ活用推進協会(FDUA)代表 岡田 拓郎氏


2024 年は「実行の年」、本格的な「AX」時代が始まる

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冒頭、津坂はマイクロソフト CEO サティア・ナデラがインドで行った講演の様子を紹介。サティアの言葉が日本語に翻訳され、口の動きもそれに連動していている映像から、生成 AI により音声だけでなくビジュアルも進化を遂げていることを示しました。

また、「去年が AI 元年だとしたら、今年は実行の 1 年」と語り、11 兆円にも及ぶ生成 AI による経済効果、そして 25% の生産性向上のデータを紹介したうえで、「いよいよ『AX』、AI を使ったトランスフォーメーションの時代が来たのではないかと思います。今から数十年前『世界中の家庭に PC を』と言ったのがマイクロソフトです。今は世界中の皆様、日本人の皆様に Copilot、いわゆる AI が入ったサービス、プロダクトを提供することを目標にしています」と述べました。

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金融機関における生成 AI の活用シナリオ

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続いて、金子が金融機関における生成 AI の活用のシナリオを紹介。金子は「Copilot を私たちは『デジタルパーソナルアシスタント』だと考えています。これは、インターネット上のニュースのさまざまな情報や皆様がお持ちのデータ、独自のシステムの情報を基にユーザーに対して的確に情報を伝えたり、何かの処理を実行したりできるパーソナルアシスタントです。金融機関の中でお仕事をされる皆様や金融機関のお客様が、ユーザーとして Copilot を使っていくことによって、より金融が身近なもの、便利なものになる世界に変わっていくと考えています」と語り、以下の 9 つの具体的な活用シナリオを紹介しました。

【活用シナリオ】

・運用報告書の内容を瞬時に読み取りわかりやすく解説
・Visio による画像認識でアニュアルレポートを考察
・テキストチャットで投資をアシスト(自然言語による買い注文、投資対象の相談など)
・Speech による音声によるコミュニケーション
・アバターによる顧客応対
・書類チェックの効率化
・相続業務にかかわる家系図の作成
・メールのコンプライアンスチェック
・お客様の声を適切に分析

9 つのシナリオでは、対顧客サービスだけではなく、金融機関ならではの社内における活用シーンも紹介。来場者の方にとって、AI の活用をより身近に感じてもらえる内容となりました。


金融に特化した生成 AI ガイドラインを作成、今春公表へ

続いて、一般社団法人金融データ活用推進協会(FDUA)代表 岡田 拓郎氏が登壇し、マイクロソフトとともに、業界横断で金融の生成 AI ガイドラインを作成していることを紹介しました。

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岡田氏は「4 月頃に公表し、無償で誰でも見られるようにしたいと思っています。業界横断で金融に関する生成 AI の関連規制法律を整理して、このガイドラインの中にお示しします。また、どういった守りのルールが必要かを、ユースケースドリブンで攻めのガイドラインとして整理しているところです。金融機関としてどういったルールやガイドラインを遵守していくべきか、ぜひこのガイドラインをご参照いただいき、各金融機関でお役立ていただきたいと思っています」と語りました。


金融機関における AI トランスフォーメーションが実現する未来

セッションの最後に津坂は、金融機関においては「AI を使いこなせる組織になること」「技術者の育成が鍵になること」「ルールを整備すること」の 3 つがポイントになると述べ、「自分から業務プロセスの改善、Copilot ではなく Pilot として皆さんが実際に働き方を変えながら、世の中を変えていくものだと思っております。最終的にはお客様との接点、店舗のあり方、UX/UI、が根本的に変わっていき、金融・保険業界がわかりやすくなるようなインターフェースができることで、より皆さんの生活を支えるサービス提供ができると思っています」とセッションを締めくくりました。

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AI 活用を推進するための AI ガバナンス powered by 日本マイクロソフト

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「AI 活用を推進するための AI ガバナンス powered by 日本マイクロソフト」では、日本マイクロソフト小川 綾がモデレーターを務め、金融庁の柳瀬 護氏、EY ストラテジー・アンド・コンサルティングの福島 雅宏氏、マイクロソフト アジアのリー・ヒッキンの 3 名によるパネルディスカッションが行われました。

【登壇者】

・金融庁 総合政策局 審議官 柳瀬 護氏
・EY ストラテジー・アンド・コンサルティング 金融サービス 金融リスクコンサルティング パートナー 福島 雅宏氏
・マイクロソフト アジア AI テクノロジー&ポリシーリード リー・ヒッキン
・日本マイクロソフト 政策渉外・法務本部 業務執行役員 法務部長 小川 綾


マイクロソフトの責任ある AI のアプローチとその実践 リー・ヒッキン

パネルディスカッションの前にリー・ヒッキンが、マイクロソフトが Azure クラウドサービスやその他のテクノロジーにおける「責任ある AI プラットフォーム」のためのツールをどのように考え、構築しているかを共有しました。

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生成 AI が世界の経済・産業の発展に大きく寄与しうることに言及しながら、リーは「もっと重要なことは説明責任であり、『AI は人間が使うためのツール』だということです。AI は、人間の創意工夫やスキルに取って代わるものではなく、私たち全員が持っている能力を補強するツールです」と語りました。

マイクソフトでは以前から AI に関する取り組みを行っていましたが、環境が変化する中、さらに力を入れていく必要があると言います。「私たちは、AI をより安全に、より一貫性のある、より人間らしくする制御メカニズムを構築する必要があります。モデルが安全に使用できるようにシステムを構築することが私たちの義務です。私たちが求めているのは、クローズドボックスの AI システムではなく、お客様が適切なユースケースで自由に使えるように、連携して動作するツールです」とリーは説明します。

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最後にリーは、CEO サティア・ナデラの言葉を引用しながら、「責任を持ち、人への影響を考慮して行うこと。機会を構築し、成長を生み出すことが重要」とプレゼンテーションを締めくくりました。


金融分野で AI の活用に期待すること

パネルディスカッションの最初のテーマは、「金融分野で AI の活用に期待すること」。柳瀬氏は、生成 AI が金融業界はもちろん、世の中を大きく変えていくということに言及したうえで、「今回の FINSUM のテーマでもある『Fintech for Happy Growth』、まさにその実現のために生成 AI という新しいツールが活かされていくことが、非常に良いことだと思っています。金融業界では過去にも、新しいテクノロジーを取り入れて来ました。生成 AI はそれに匹敵するか、それ以上のインベンション(発明)かもしれません。上手く使いながらリスクを抑えていく。それを我々が考えていく必要があります」と述べました。

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福島氏は、同社が全世界で行った調査結果を紹介。直近では生成 AI の利用はほぼ「内部利用」に留まっているものの、今後 3 年間を見越すと顧客を含めた「外部利用」が逆転してくると言います。「ガバナンスを主体に関わっている人間としては、外部利用になると求められるバランスが変わってくる部分もあると考えています。内部から外部への動きについて注意していきたいです。リスクマネジメント領域に対する AI の利活用は、非常に大きな可能性があると思っています。リスクマネジメントを高度化、効率化していく中で、AI を活用する余地は大きい」と福島氏。

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リーは、二人の意見に同意しつつガバナンスとデータの重要性について「銀行と金融は、おそらく最もデータ量の多いセクターの 1 つであると思います。しかし、情報は保持されているだけで、十分に活用されていません。すべてのデータ、スキル、そして AI ツールを構築する能力があったとしても、その初期段階としてガバナンスを構築する必要があります」と、ガバナンスの重要性について語りました。

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AI の利活用を推進していくにあたって AI ガバナンスで重要なこと

次のテーマは、「AI の利活用を推進していくにあたって、AI ガバナンスで重要なこと」。柳瀬氏は、「経営陣が『理解しなければいけないことは何かを理解していること』が必要だと思っています。そのためには、小さいところから始めていただき、ガバナンス、リスクマネジメントの観点から『何に気を付ければいけないのか』の実感を持っていただくことが大切です。生成 AI でどんなことができるかを、サービスプロバイダーの方と一緒に話しながらビジネスを作っていくことも求められるでしょう。また、担当者だけに任せるのではなく、経営陣自ら『何のために AI を使うのか』『AI を使うことに伴い、どんなリスクがあり、どこまでを許容できるのか』を理解しておくことも重要です」と述べました。

福島氏は、「透明性と説明責任がガバナンスとしては核になる」というリーのプレゼンテーションに同感しながら、それを確かなものにするために第三者視点での「アシュアランス」が重要な要素になると話しました。さらに、調査結果から「銀行では、モデルガバナンスが既に構築されているため、それをエンハンスしていくアプローチが多いです。AI ガバナンスとデータガバナンスは、切っても切れない関係にあるため、セットで対応する必要があると思います。また、サードパーティリスクにも配慮することも大切です。マイクロソフトさんのように、しっかりしたガバナンスを確立して、それを説明していくというような取り組みは非常に意味があることだと思っています」。

リーは、「ほとんどの組織、特に金融機関でガバナンスの必要性を説いた時、最初に頼るのは AI やテクノロジーではなく、銀行におけるプロセスの安全性と尊厳を守るためのリスクとガバナンスです。これらの構造の外でどのように設定すべきかを考えていないのです。単にリスクを冒す人や技術者をそこに置けば良いということではありません。全員が参加することが大切です。マイクロソフトの AI コミュニティには、多様で異なるバックグラウンドを持つ幅広い人々が集まります。つまり、私が言いたいのは、『もっと広く考えるべき』ということです」と語りました。


今後の取り組みとして注目していること

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最後のテーマは、「今後の取り組みとして注目していること」。これに対し、柳瀬氏は、日本政府で AI 事業者に関するガイドラインを作成したことに触れ、金融部門においても一般社団法人金融データ活用推進協会( FDUA)が、金融分野に関するガイドラインを作成していることを紹介しました。世界での動きについて「G20 で FSB( Financial Stability Board:金融安定理事会)でも AI についての話が出てきています。おそらく年内には、FSB から金融安定、あるいは金融セクターの観点から『国際的に AI についてどう考えるのか』が発表され、そのアウトプットを踏まえた『国際的な AI に関する金融の規制枠組み』が出てくると思っています。そういう意味では、1 年でかなり『どんなスタンダードに沿っていれば問題がないのか』が明らかになり、安心感を持って進めていけるのではないかと思います」と、柳瀬氏。

福島氏は、「レジリエンス」の重要性が高まっていくと、自身の見解を述べました。「生成 AI が、金融機関のクリティカルな業務の中で活用されてくると、そこが金融機関のオペレーショナルリスクで非常に大きな要素になってきます。デジタルのオペレーションレジリエンスが、金融システム全体の安定性に非常に大きな影響を持つようになってきていることもあり、適切にサービスを提供し続けるという意味でのレジリエンス。こういったガバナンス全体に、しっかりと取り組んでいくことが必要になってくると思います。そこについては注目していきたいですし、私の立場でも貢献していきたいです」(福島氏)。

リーは最後に、「大きな言語モデルと小さな言語モデルのギャップが縮まってきています。それが意味することは、より多くの場所、より多くのデバイス、クラウドで AI を実行できるようになり、新しい世界が開かれるでしょう。複雑なプランナーエージェントの存在により、ハルシネーションが減り、エージェントの生産性が向上します。企業が AI をビジネス全体の API ループとして考え、情報を移動するまったく新しい方法を生み出す機会が生まれます」と、これから 1 年のうちに起こることについて言及しました。

最後に、小川は「今日は AI を活用、推進するためのガバナンスに関して、さまざまなお立場から貴重なインサイトをいただき、ありがとうございました。柳瀬さんのお話にもありましたが、これからの 1 年でガイドラインや規制環境も変わっていく中、安心安全に金融分野で AI が活用されていくよう、マイクロソフトはこれからも皆様のパートナーとして進んでいきたいと思っています」と述べ、ワークショップを締めくくりました。

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