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2010 年 5 月 17 日

世界モデルの構築

今回は、マイクロソフトのサーバー & ツール ビジネス担当プレジデントであるボブ マグリア(Bob Muglia)が、マイクロソフトのテクニカル コンピューティング イニシアチブ、すなわち、汎用性と正確さを備えたリアルタイム モデリングのパワーを活用することで、人々や組織の能力を最大限に発揮させることを目指すマイクロソフトの取り組みについての課題と目標についてお話しします。

私たちにとって、身の回りの生活がどれほど複雑なものであるかに思いを馳せる機会は、それほど多くはありません。実は、職場への行き来のような比較的簡単な場面であっても、天候、鉄道ダイヤの乱れ、事故、交通事情、道路工事といった可変要因が複雑にかつ相互に作用することでその状況は決定されます。けれども、これらの変数の一部であってもそれを適切に理解することができれば、通勤時間を短くするための対策を講ずることが可能なはずです。実際には、恐らく私たちはこうした可変要素を把握しながら、日常的な行動の基準となる予測モデルを本能的に構築し、結果として目的地により速く到達するための手段として活用しているに違いありません。

現在、極めて複雑な作業に対してこのような手法を適用しようとすると、このモデル化のアプローチには、さらに大きな困難が伴うことになります。最近の世界の状況でも明らかになったように、現在の私たちは、地球規模の金融市場の動向やアイスランドで起きた火山爆発の発生や影響を、本来であれば正確に予測するための助けとなるはずの膨大な情報や可変要因の扱いに窮しているというのが現状です。

現在、研究者、技術者、アナリスト達は、複雑なシステムの中に、ほぼ無限に近い、可能な限り多くの計算処理を行えるようなコンピューター モデルを構築することで、こうした問題の解決をはかろうとしています。ところが、世界の動向をより良く理解することを、事実に基づく未来予測を行おうとすればするほど、より高度なコンピューター モデルが必要となります。そして、そのためには、カメラ、デジタル センサー、あらゆる種類の精密機器から得られた膨大なデータを処理し検証するための膨大な量のコンピューティング パワーが必要となってきます。まさにこのことが、データに隠された意味、すなわち膨大な数の課題の解決を可能にする洞察の存在を明らかにしてくれるような、より正確で実際的なモデルを構築するための鍵となるものです。

私たちは、この種のコンピューター モデルを構築する能力においては大きな進歩を遂げていますが、今でも、価格上の問題、管理上の問題など、解決すべき困難な問題が残されています。今のところ、最も複雑なデータ集中型のシミュレーションであっても、自分達がモデル化しようするシステムの複雑な様相や依存性を完全には把握することができない状況です。いつどこで火山が爆発しフライトスケジュールにどのような影響を及ぼすかについての予測、あるいは世界規模のインフルエンザの伝染状況についての予測の確かさに言及することが、科学者や技術者にとって極めて難しいのはこのためです。すなわち現在のところは、実世界の様相を正確に予想するのに十分なデータを収集する、関連づける、計算するといったことが不可能であるという点が壁になっているわけです。

時代の変化がもたらすもの

テクノロジのイノベーションは 世界の動きを計測、監視そしてモデル化する場合の私たちの能力に変革をもたらそうとしています。科学研究の成果はそうした分野に大きな恩恵をもたらし、結果として医療や気候変動といった地球規模の課題に挑戦するための方法をも変革します。科学研究はさらに、工学やビジネスの世界にも大きな影響をもたらすだけでなく、新製品、新事業、ひいては新たな産業の構築にも繋がるような画期的な発想の源泉ともなります。

本日、私は、マイクロソフトのテクニカル コンピューティング イニシアチブ、すなわち世界中で活躍される何百万という賢明な問題解決者に大きな力をもたらすことに焦点を当てた当社の新しい取り組みについて、初めて皆様にお話できる機会を持てたことを嬉しく思います。

このイニシアチブにおける私たちの目標は、汎用性と正確さを備えたリアルタイム モデリングのパワーを解放し、人々や組織の目標達成と能力発揮を支援することにあります。そして私たちは、業界、大学、ならびに科学関連学会などに散在するテクニカル コンピューティング コミュニティの優れた知性を一堂に集結させ、現状や課題、ならびに機会の共有などについて話し合うための場として、 www.modelingtheworld.com を設置しました。

数学的で計算学的な原則が実際問題の解決に役立つような領域においては、新たなテクノロジの進展が、テクニカル コンピューティングを今以上に購入し易く、かつ利用し易くするためのツールやアプリケーションの基礎を提供します。しばらくすれば、これまでは上級のソフトウェア プログラマーから構成されるチームが数か月かけて開発し、数日かけて実行していたような複雑な作業でも、一人の科学者、エンジニア、ないしはアナリストが自分のデスクトップ上のPCを使って、午後いっぱいで完成してしまうような時期が訪れることでしょう。テクノロジの進展がさらに続けば、これらのモデルはさらに完成度と正確さを増し、現実の世界をより正しく表現できるようになることでしょう。結果として、新たな発想の検証やプロセスの改善が速まり、かつシステムに対する私たちの理解は深まることでしょう。

私たちのテクニカル コンピューティング イニシアチブには、マイクロソフトがこれまで積み上げてきた実績が最大限活かされています。ビル ゲイツが1980年代の初めに「すべてのデスクトップにコンピューターを」という当時としては極めて突飛な発想をビジョンとして提言して以来、マイクロソフトは、コンピューティングのパワーと活用範囲の拡大を目指すフロントランナーとして、世界に貢献してきました。私はマイクロソフトにおいて、長きにわたってビルと一緒に仕事をしてきた人間の一人として、このビジョンの背景にある情熱がそのままの形でマイクロソフトに生きており、いまそのビジョンが新たなTechnical Computingグループの設立として結実しようとしていることを皆様にお知らせできることを嬉しく思います。

より適確な予測テクノロジの実現に向けて

当社はこれまでの5年間に、HPC分野への投資、すなわち強力なコンピューティング パワーをもっと手軽に利用できるような仕組みの実現に力を注いできましたが、その影響は各方面に見られます。あらゆる規模、あらゆる業界分野の組織で働く科学者、技術者ならびにアナリスト達が、分散コンピューティングのパワーを活用することで 社会的な影響を高め、科学上の進歩を速め、競争力の強化をはかりつつあります。例えば、以下のようなお客様に顕著な事例がみられます。

  • マラリアは、世界中で毎年30万人から50万人の人達に感染します。世界のマラリア撲滅運動を支援するため、Intellectual Venturesの科学者達は、マラリアが蔓延する様子や、ワクチンや蚊帳の利用といった防御方法や制御方法の効果を知るための手段として、それらをシミュレート(模擬実験)するためのソフトを利用しています。研究者達は、テクニカル コンピューティングを活用することで、より詳細なパラメーター(媒介変数)のモデル化が可能となり、より正確な結果が得られるようになっただけでなく、これまでのように一日中待たされるようなこともなく、一時間以内で結果を得られるようになりました。
  • 航空技術の会社であるa.i. solutions, Inc.は、NASA、米国防省、ならびに宇宙飛行計画に携わる政府機関といった同社の顧客から要請された計算業務がますます複雑化するのに併せて、より強力なコンピューティング プラットフォームを用意する必要性に迫られていました。こうした要請に応えるため、同社ではテクニカル コンピューティングの採用に踏み切りました。その結果、現在同社では、特定の宇宙船の最適発射時間、軌道決定、姿勢制御、そしてナビゲーション(航行)といった航空力学的な要素を、最大でこれまでの8倍の速さで詳細に予測し分析することが可能になりました。これにより、宇宙計画の失敗や人命の喪失、ならびに数百万ドルにおよぶ経済的な損失にも繋がる恐れのある、あらゆる分野の間違いを避けることが可能となりました。
  • Western & Southern Financial Groupは、保険契約者や保険商品数の増加、ならびに規制要件の変更に伴って、これまで以上に大規模で複雑な保険統計モデルを稼働させる必要性に迫られていました。同社は、テクニカル コンピューティング テクノロジ上で稼働する保険統計ソリューションを選択しました。導入したソリューションは、同社のITスタッフにとって管理しやすく、かつビジネスニーズをも満足しやすいものでした。その結果、モデル化に必要な時間を最大99パーセント削減することが可能となっただけでなく、モデルを微調整するなどして、商品の価格設定や財務状況の予測をさらに正確に行うこともできるようになりました。

テクニカル コンピューティングについての当社の方針

私たちは、業界や学会の枠を越えた密接なコラボレーションを通じてテクニカル コンピューティングの適用分野をさらに拡大し、予測モデルの構築やデータ検索に携わる人々が、より迅速で正確な予測作業を行えるようにするための支援を推進すべきであると考えています。

当社は、テクニカル コンピューティング イニシアチブの推進に併せて、以下の3つの中核分野に投資していく方針です。

  1. テクニカル コンピューティングのクラウドへの展開:マイクロソフトは、テクニカル コンピューティングのパワーを、クラウドを介して科学者、技術者、そしてアナリスト達に提供していくという取り組みにおいて、主導的な役割を果たす方針です。既存のHPCユーザーにとっても、ジャストインタイムの処理を可能にするクラウドのリソースを活用することで、現在利用しているオンプレミスシステムの強化を図れるというメリットがあります。テクニカル コンピューティングをクラウドに展開することにより、プロセス資源を時間にかかわらずいつでも必要な時に確実に利用できるという、信頼性、一貫性、および迅速性を備えたプラットフォームを実現することが出来ます。
  2. 並列処理プログラム開発の簡素化:現在出荷されているコンピューターは、複数コアのCPUなどを通じて、これまでになく大きなパワーをユーザーに提供することができますが、現在使われているほとんどのソフトウェアは、利用できる処理能力のごく一部しか活用していません。並列処理プログラムのコーディング、テスト、トラブルシューティングは極めて困難です。もし、並列処理プログラミングのための一貫したモデルが実現できれば、より多くの開発者が現代のコンピューターに備わった膨大なパワーを有効に利用できるような、新たなテクニカル コンピューティングの世代を切り開くことが可能です。当社は、デスクトップからクラウドにいたる環境において、並列処理が可能なソフトウェアの開発を自動化、簡素化するための新たなツールを提供する方針です。
  3. テクニカル コンピューティングを支える強力な新しいツールとアプリケーションの開発:私たちの理解では、科学者、技術者、そしてアナリスト達は、(表計算ツールややデータベースといった)一般的なツールを極限まで活用することで複雑でデータ集中型モデルの計算を行っています。彼らが必要としているのは、より強力なコンピューティングパワーを容易に利用できる環境であり、また彼らの作業をより迅速にしてくれる簡素なツールです。当社はこうしたことを可能にするプラットフォームを構築しているところです。この開発作業を経て、データ収集、モデル化、シミュレーション、視覚化、ワークフロー作成、コラボレーションなどを自動化するための新しい、使い易いツールとアプリケーションを実現する方針です。これにより、自分達の本来の仕事により多くの時間を割き、複雑なテクノロジとの格闘に費やされる時間を削減することが可能となります。

志を高く

私たちを取り囲む魅力的な世界には、まだまだ発見すべきこと、回答すべき問題が多々残されています。テクニカル コンピューティング コミュニティの活動が、まだほとんどのことを理解していない私たちの姿を浮き彫りにしてくれることでしょう。このコミュニティによって実現される可能性のある画期的なテクノロジのいくつかを想像してみましょう。

  • 地球規模の疫病や伝染病、そして医療実態の把握や改善を支援できるような、より優れた予測テクノロジの実現。
  • 環境、経済、人間系への影響を予測でき、かつ重要な議論や討議の中でリアルタイムに利用できるような気候変動モデルの構築。
  • 自然災害とその影響をより正確に予測し、より効果的な緊急時対応計画の策定を可能にする仕組みの構築。

今後この新しいチームは、持ち前の志の高さを元にして、当社のこれまでの実績に立脚したテクノカル コンピューティング ビジョンの実現をはかっていく方針です。その中で、適切なテクノロジ、ツールそして人材には確実に投資するとともに、テクニカル コンピューティング コミュニティの一体化にも力を注ぐつもりです。

今日にでも www.modelingtheworld.com にアクセスしてみてください。アイディアやご意見は大歓迎です。世界最大規模の疑問に答え、解決不能と思える問題を解決し、私たちの生活する世界をより良く変えていくための幾多の可能性を見いだそうとする皆様方とともに、この旅をご一緒できることを心待ちにしております。

ボブ マグリア
 

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