「Azure GovTech Day 2025」 セミナーレポート
2025 年 7 月 15 日、日本マイクロソフトは品川本社にて、デジタル庁をはじめ、各府省および独立行政法人の関係者を対象としたセミナー「Azure GovTech Day 2025」を開催しました。オープニングではデジタル庁 CCO が登壇し、続いて政府機関における Azure 導入事例や最新トレンドを紹介しました。クロストークでは、デジタル庁 CTO と Microsoft の技術幹部が政策と技術の要諦を深掘りし、議論を交わしました。
「メイン」「データ& AI」「セキュリティ&開発」の 3 つのトラックに分かれたブレークアウトセッションでは、それぞれのテーマに即した最新のベストプラクティスを提示し、実務に資する知見を共有しました。さらに、Microsoft のサービスやパートナー連携に関する具体的な課題や疑問を直接相談できる「よろづ相談窓口」も設け、参加者にとってより業務に直結する場を提供しました。本稿では、当日のセミナーにおける各プレゼンテーションの模様をお伝えします。
本レポートで紹介するセッションは7月15日に行われたセミナーの一部になります。
詳細は下記リンクをご覧ください。
リンク:https://micug.jp/event/azure-govtech-day-2025/
法改正が促すガバメントクラウド活用の加速

Chier Cloud Officer
山本 教仁 氏
「Azure GovTech Day 2025」の幕開けを飾ったのは、デジタル庁 CCO 山本氏によるオープニングセッションでした。山本氏は「私は 12 年ほどクラウドに携わり、この 4 年間はデジタル庁でガバメントクラウドの整備に尽力してきました」と述べ、現状と展望を語りました。
「ガバメントクラウドは、各省庁や自治体が個別に運用してきた行政情報システムを、共通のクラウド基盤で標準化・共通化する仕組みです」と説明し、2024 年末に成立した「情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律の一部を改正する法律」に言及。「この改正で国には利用検討が義務化され、他の団体にも努力義務が課されました。クラウドに適した利用を検討して判断することが重要です」と述べました。
また、クラウド活用には「国全体の方針」と「ユーザーとしての使いこなし」の二つの視点があるとし、「今日は特にユーザー視点での活用をお伝えしたい」と述べました。移行に際してはレガシー脱却を伴う「モダン化」が不可欠だと強調し、「新しい技術はほとんどがクラウド上で動いており、AI も例外ではありません」と語りました。
さらに、「オンプレミスは価格が固定されますが、クラウドは運用しながらコストを下げられます。契約後こそ職員の出番です」と述べ、効率的活用の重要性を訴えました。山本氏は「デジタル庁としても情報発信を強化していきます。イベントを活用し、職員自ら理解を深めてほしい」と呼びかけ、セッションを締めくくりました。
行政 DX を支えるマイクロソフトの革新と責任

代表取締役 社長
津坂 美樹
続いて、弊社 代表取締役 社長 津坂によるビデオメッセージが放映されました。冒頭「日々行政の現場でDX 促進に尽力されている皆様に心より敬意を表します」と述べ、「政府機関の皆様と Microsoft Cloud の最新技術を共有し、未来の行政 DX をともに考える場」と語りました。
また、マイクロソフトが世界中の政府機関と連携して、公共分野向けクラウド導入を支援している事例を示し、「多くの皆さまにご支持いただいているのは、全社を挙げたセキュリティへの取り組みがあるからです」と述べました。さらに、「私たちは世界最大規模のセキュリティ体制を構築しています」と語り、3 万 4,000 人以上のエンジニアや専門家が従事していることを強調しました。
「1 日あたり 78 兆件を超えるセキュリティシグナルをリアルタイムで分析し、未知の脅威にも迅速に対応しています」と述べた上で、「各国政府には脅威情報や脆弱性情報も提供し、日本の省庁には AI を活用したサイバーセキュリティ強化の支援も行っています」と話し、緊密な連携を進めていることを明かしました。最後に、「マイクロソフトは単に技術を提供するだけでなく、皆様の DX パートナーとして信頼性、継続性、そして安全性を支える存在でありたい」と締めくくりました。
生成 AI とクラウドで変わる公共業務の未来

執行役員 常務 クラウド & AI ソリューション事業本部長
岡嵜 禎
岡嵜からは「Microsoft Cloud × AI トランスフォーメーション – AI エージェントがもたらす業務革新 -」と題し、最新の AI 戦略と実装事例を語りました。
冒頭、「生成 AI の革新性は二つあります。一つは自然言語でコンピュータや IT システムと直接対話できるようになったこと。もう一つは AI の精度向上です」と述べ、Windows 95の登場がコンピュータの操作性を一変させたように、生成 AI は操作のインターフェースを言葉へと進化させる画期的な変化だと語りました。続いて、「生成 AI は試行フェーズを越え、2025 年には本格的なビジネス活用の時期に入る」と指摘。「人の業務を代替できる AIエージェントが今後加速的に普及する」との見方を示しました。エージェントの特徴として、自律性、目標指向、高度な推論を挙げ、「AI が自ら最適な手順を考え、柔軟に実行できる点が従来のシステムとの決定的な違いです」と強調しました。
マイクロソフトはエージェントを、①ビルトイン型、②サードパーティ型、③カスタマイズ型の三つの形態で提供しており、「エージェント同士が連携することで、人を介さずにより高度な業務が可能になる」と述べました。例として、GitHub Copilot による自動コーディングやテスト実行、Power BI での自然言語によるデータ分析を挙げ、「例えば『今期の営業状況を教えて』と話しかけるだけで詳細なレポートを生成できます」と説明しました。

さらに、Azure AI Foundry を活用したカスタムエージェント開発の可能性にも言及し、「新入社員受け入れ準備を AI が自律的に考え、実行するような業務プロセス全体の自動化が現実になっています」と語りました。続いて複数の民間企業のお客様での活用事例を紹介。「AI は単なる効率化ではなく、業務の質そのものを変革します」と述べました。最後に「人口減少が進む中で、現在のサービスレベルを維持・向上させるには、AI テクノロジーの活用が不可欠です。職員全員が AI を使いこなせるようになることが重要です」と締めくくりました。
【パネルセッション】行政の現場から学ぶ Azure 活用ストーリー

政策統括官付 地理空間情報課
課長補佐 川井 千春 氏
デジタル庁
Chier Cloud Officer
山本 教仁 氏
日本マイクロソフト株式会社
パブリックセクター事業本部 ガバメント統括本部
公森 義貴
本セッションでは、冒頭、国土交通省 川井氏が登壇し、同省が運用する「不動産情報ライブラリ」について解説しました。川井氏は「不動産情報ライブラリは、地価公示や都市計画、災害ハザードなど、不動産に関する多様なオープンデータを地図上で一元的に表示し、利用者が必要な情報を簡単に確認できるWebGISサービスです」と述べ、その背景として「一般消費者の不動産取引に関わる情報収集を容易にし、円滑な不動産取引を促進することが狙いです」と説明しました。サービスは API 連携にも対応し、自治体や民間事業者による活用が広がっているといいます。
続くパネルディスカッションでは、デジタル庁 CCO 山本氏、弊社 公森が加わり、実務に根差した議論が展開されました。川井氏は「当初年間 30 万アクセスを想定していましたが、公開直後に 10 倍超のアクセスが集中し、サービス停止の恐れがありました。Azure を採用したことで迅速にリソースを拡張し、短期間で復旧できたのは非常に大きかった」と語り、クラウドの柔軟性を強調しました。これに対し山本氏は「アクセス増はむしろ歓迎すべきこと。クラウドの特性を生かし、皆さんには存分に使っていただきたい」と応じ、ガバメントクラウド活用の意義を力強く語りました。公森は「ガバメントクラウドは、調達や運用コストの削減だけでなく、高度なセキュリティやガバナンスを確保しつつ、迅速なサービス展開を支える基盤です」と説明しました。
さらに AI 活用の可能性にも話題は及び、川井氏は「不動産情報ライブラリ自体への AI 実装にはまだ時間を要するが、オープンデータを AI のインプットとして使う動きは既に活発化している」と述べ、今後の展望を示しました。山本氏も「AI 活用にはデータ整備が不可欠。ガバメントクラウドを基盤に、安全で持続的な利用を進めたい」と語り、官民連携によるデジタル化推進への期待を示しました。最後に公森は、「現場の課題解決に役立つテクノロジーを、国や自治体の皆さまに安心してご活用いただくことが、私たちの使命です」と述べ、セッションを締めくくりました。
CTO が語る AI で加速する政府DX ~スピードと人材を創るクロストーク~

CTO
藤本 真樹 氏
日本マイクロソフト株式会社
業務執行役員 Microsoft Innovation Hub Tokyo Lead
榎並 利晃
本セッションでは、デジタル庁 CTO 藤本氏と、弊社 榎並が登壇し、熱い議論を交わしました。セッションではまず、マイクロソフトが毎年発表しているグローバルな働き方調査レポート「2025 Work Trend Index」が紹介され、「AI が同僚のように動く時代が近づいています。一方で、現場は逼迫し、新しいことに手を出せないというギャップが存在する」(榎並)と解説しました。これに対し藤本氏は、「現場が疲弊する中で、新しいテクノロジーの導入は簡単ではない。しかし『やってみる』ことからしか道は拓けない」と応じ、実践の重要性を訴えました。
生成 AI の適用領域について、藤本氏は「ソフトウェア開発は AI の主戦場だと思います。応用も広がっており、もはや AI を使わない分野を探す方が難しい」と語りました。榎並からは「要件定義や設計など上流工程から AI が支援できる可能性がある。特にバグの多くは要件漏れや認識違いが原因で、そこを埋めるのに生成 AI が力を発揮できる」と述べられ、開発プロセス全体での活用に期待を示しました。

藤本氏は「最初から適用範囲を絞るのではなく、まずは全部できる前提で試してみるべきです」と強調し、「その上で、人間がやるべきことは何かを再定義するフェーズに来ている」と話しました。榎並も「行政の現場でも小さなトライを重ねることが大事です。生成 AI は使いながら学ぶものです」と呼応しました。
また、AI 活用のリスクについても議論が及び、藤本氏は「情報を投げた後、それがどのように使われるかという透明性やアカウンタビリティ(説明責任)が不可欠です」と述べ、「モデルが持つバイアスや、自然にそれらしく誤情報を話すハルシネーションの問題もあり、行政での活用には制約がある」と指摘しました。榎並からは「技術は日進月歩でリスクも多いが、使わないリスクもある。だからこそマイクロソフトとしても伴走し支援していきたい」と語られました。さらに藤本氏は、AI 活用を進めるには調達の在り方も重要だとし、「調達のガイドライン整備を進めています。従来のやり方ではスピード感が出ない」と述べ、行政における変革の必要性を示しました。「行政システムを良くするために、技術と制度のバランスをどう取るかが CTO の挑戦です」と語り、官民連携による前進への決意が示されました。
行政におけるクラウド活用の第一歩 ~ガバメントクラウドと Azure の基礎理解~

Intelligent Cloud Team Unit Solution Specialist
小久保 龍太
本セッションでは、弊社 小久保が、行政機関がクラウド活用を進める上での要点を解説しました。冒頭、「ガバメントクラウドは公共情報システムに求められる厳格なガバナンスとセキュリティを備えつつも、利用組織のシステム構成の自由度を保った基盤です」と強調。Azure 環境は階層構造を採用しており、「デジタル庁が共通領域で全体の方針やセキュリティを管理し、その下に各利用組織の領域が続きます」と説明しました。上位の階層に適用されたガードレール設定(Azure Policy によるクラウドガバナンス制御)は下位の階層にあたる、ガバメントクラウド利用組織のサブスクリプションに継承され、「特定リージョン(東日本、西日本)以外でのデプロイ制限やログ収集など統制を保ちながら、各組織のシステム構成の自由度も確保できます」と述べました。ガバナンス面では「予防的統制」と「発見的統制」の二軸があり、前者はガードレールとしての Azure Policy、後者は Microsoft Defender for Cloud によるリアクティブな監視と関係者への通知、推奨対処事項の提示で、担保されると説明しました。
ネットワーク面では、ガバメントクラウドは「インターネット経由の接続はもちろん、閉域接続や外部 SaaS との連携も可能」で、高い構成自由度が保たれていることを解説。また、サポート面でもデジタル庁とマイクロソフト間の「Microsoft ユニファイドサポート」契約により、利用組織が Azure ポータル経由で直接技術支援を受けられる仕組みが整っていると説明しました。

さらに Azure の強みとして「世界最大規模の脅威インテリジェンスを背景にした堅牢なセキュリティ」、「AI 組込みによる開発・運用支援」、「Power BI や Microsoft 365 とのシームレス連携」を挙げました。特に生成 AI では、「OpenAI モデルを唯一 Azure 上で提供しており、コンテンツフィルタや国内完結の推論処理、著作権コミットメントなど、公共利用者に向けた安心機能を備えている」と語りました。最後に小久保より「移行の検討はシステムごとに多様な要素があるため、ぜひ具体的な活用シーンを踏まえてディスカッションさせていただきたい」と呼びかけました。
脱 Excel! Power BI ではじめる実践的なデータ活用

Modern Work Specialist Team Unit
川原 純一郎
本セッションでは、弊社 川原が、Power BI を用いたデータ利活用の効率化の鍵を解説しました。冒頭、「脱 Excel とは、Excel を否定するものではなく、Excel と Power BI を使い分け、業務の効率化を目指すことです」と強調し、両ツールの特性を整理しました。
BI(ビジネスインテリジェンス)について「数字の羅列を、折れ線グラフや円グラフなどのビジュアルに変えることで、直感的に状況を把握し、議論や意思決定に集中できる仕組みです」と解説。Excel と Power BI について「Excel は印刷や入力に強い一方で、大量データの扱いには限界があります。一方、Power BI は、クラウドベースで動的な分析に優れ、データを様々な角度から深掘りできます」と述べ、報告には Excel、分析や仮説立案には Power BI という使い分けを提案しました。
Power BI の特徴として、「ブラウザや Teams、PowerPoint など、Microsoft 製品とシームレスに連携できる」点を挙げ、実際の活用例を紹介。デジタル庁が公開する「政策データダッシュボード」では、マイナンバー普及状況をはじめとする国民向けデータを即座に可視化することに貢献。さらに、さいたま市の救急車需要予測プロジェクトでは、「Power BI を活用することで、データ収集期間が 60 日から 1 日に短縮され、議論に多くの時間を割けるようになった」と述べ、EBPM(エビデンス・ベースド・ポリシーメイキング)の実践に大きく貢献している、と語りました。

https://www.digital.go.jp/resources/govdashboard
また、 Power Query を使った「ピボット解除」などのデータ整形テクニックにも触れ、「データ分析の前段階での整備が、分析の質を左右します」と説明。最後に「Excel と Power BI の両方を活かすことで、データ分析業務の効率化を実現できます」と締めくくり、行政 DX におけるツール活用の重要性を訴えました。
ガバメントクラウドを支える Defender for Cloud とネットワークセキュリティソリューションによる Azure の守り方

Intelligent Cloud Team Unit Technical Specialist
山田 浩也
本セッションでは、弊社 山田より、ガバメントクラウドにおける Azure の堅牢なセキュリティ確保の要諦を解説しました。「本セッションは、Azure に限らず他社のクラウドにも通じる基本的な考え方を共有したい」と語り、冒頭ではクラウド利用における「共同責任モデル」を強調。業務に近い領域の管理責任は利用者側に残る現実を指摘し、「責任分界を理解した上で、的確な対策を講じることが重要です」と訴えました。
防御の指針として取り上げたのが「Microsoft クラウドセキュリティベンチマーク(MCSB)」で、ネットワークセキュリティや脆弱性管理、エンドポイント保護の重要性を解説。セッションでは Azure の仮想ネットワーク(Azure Virtual Network:VNet)、Network Security Group(NSG)、Azure Firewall の役割や、Azure DDoS Protection、Web Application Firewall(WAF)による攻撃遮断策を示しました。
さらに、マネージドサービス利用時にも「プライベートリンクやプライベートエンドポイントでネットワークを閉域化し、インターネットからの不要な接続を遮断するのが重要」と述べ、仮想ネットワーク内へのサービス引き込みの必要性を強調しました。また、Defender for Cloud が備える Cloud Security Posture Management(CSPM)機能について解説し、「Azure 以外のクラウド環境にも活用できるので、まずは機械的なチェックを行うことが有効です。持ち帰り、ぜひ自組織の構成を照らし合わせてほしい」と述べました。また「ゼロトラストの考え方に基づき、縦だけでなく横方向の多層防御を構築することが肝心です」と強調し、Azure のリファレンスアーキテクチャを提示しました。
超高速高品質に文書作成とアプリケーションの開発が行われている、私の日常

Principal Technical Architect
畠山 大有
弊社 畠山は、生成 AI を駆使した行政業務改革の可能性を解説しました。約 30 年のソフトウェア開発経験を持つ畠山は「生成 AI でアプリケーション開発の現場は大きく様変わりしている」と述べ、「私はコードを過去ほど書きません」と強調。AI を「外部のパートナー」と捉え、業務の劇的な効率化が実現できることを示しました。
畠山は、従来数週間かかっていた業務分析や要件定義、さらにはアプリケーション開発が「生成 AI を使えば数十分で完了できる」とし、デモでその実力を披露。 Microsoft 365 Copilotを用いて、国家公務員の過去 30 年間の行政政策を瞬時に分析し、業務改善レポートを生成する様子を示し、「紙ベースの業務や複雑な行政手続きの課題を浮き彫りにし、改善策を提案できる可能性がある」と説明しました。

さらに、GitHub Copilot の AI エージェントを活用したオンライン申請電子決済プラットフォームの開発デモでは、「Copilot に要件を伝えるだけで、ログイン画面などの実装が短時間で可能」と語り、「民間業者に発注するのと全く同じ感覚で Copilot に開発を依頼できる」と述べました。
畠山はAI活用のカギとして「MCP(Model Context Protocol)」を紹介。「MCP により AIが外部ツールやデータソースにアクセスできることで、単独の生成 AI が持ちえない、最新のその技術や SDK などの詳細な情報が得られることで、生成結果の品質が向上する」と説明しました。
最後に、「行政サービスの質を高め、国民へのタイムリーなサービス提供を実現する未来は必ず来る。まだ道半ばだが、確実に楽しい未来に向けて進んでいる」と語り、AI が行政 DX の要となることを強調しました。
AI 利活用に待ったなし、Microsoft のクラウドサービスと新 AI ガイドライン

パブリックセクター事業本部 ガバメント統括部
公森 義貴
弊社 公森は、「生成 AI の利活用は避けて通れないが、リスクへの備えも不可欠だ」と述べ、政府における AI 活用の現状と課題に切り込みました。
デジタル庁や総務省、経済産業省などが策定した生成 AI ガイドラインについて、「このガイドラインは、クラウド利用時のデータ機密性の水準を定義し、機密性 2までのデータを対象としています。特定秘密や安全保障に関わる情報は対象外ではあるが、逆にほとんどのデータは生成 AI の活用範囲に入る」と説明。その上で「ガイドラインはあくまで参考資料。各府省庁は独自のルールを整備し、適切に運用することが推奨されています」と指摘しました。
マイクロソフトの AI 提供形態は 4 つに分類されます。公森は、「SaaS 型は Microsoft 365 Copilot など、すべて Microsoft 側で完結するサービスです。利用者はシステム構築を意識する必要がなく、一番シンプルです」と述べました。一方、API 型の Azure OpenAI については「生成 AI の機能部分のみを提供する形態であり、利用者が周辺システムを設計・構築する責任が伴います」と説明しました。また、「採用しようとしている生成AIを含めたサービスが、提供事業者で全て責任を持っているサービスなのか、モデル部分だけ自社開発でクラウド基盤は他社なのか、その逆なのか、その責任範囲や運用方法を正しく理解する必要があります。いずれの提供形態でも正しく理解され管理されていれば安全に利用ができると考えられる。」と強調しました。

安全性確保の観点からマイクロソフトは「公平性、信頼性、プライバシーとセキュリティ、包括性、透明性、説明責任」という 6 つの原則を掲げています。公森は「これらをクリアしない限り、製品はリリースできないほど、生成AIやAI機能を含む開発のハードルは高い」と語り、特に SaaS 型サービスではコンテンツフィルタ等を含め、ユーザーは最初から利用者として安全にAI機能が利用できるようになっていると説明しました。「Azure OpenAI もサービス組み込みのコンテンツフィルタ等の安全機能が適用されていますが、政府機関を含め、エンドユーザーからの除外申請があれば弊社承認プロセスを経て解除が可能です」と述べ、運用上の柔軟性にも触れました。
さらに、Azure OpenAI の推論処理の場所について「マイクロソフトでは、日本国内で完結するリージョナルデプロイ方式を含め、複数の展開方式を用意しています。いずれの方式を選択しても、お客様のデータの保存先は全て日本リージョン内です」と解説。「ただし、ガイドラインでは推論処理の場所に関する明確な規定はなく、各組織固有のガイドラインやルールによりいずれの方式も選択いただけると理解しております」と付け加えました。
最後に「AI の活用は便利さだけでなく、安全性と信頼性を両立させるために、弊社のようなAI機能を提供している事業者と、AI 機能を活用してシステム整備を行う利用組織が共に責任を果たす共同責任の考え方が重要です」と締めくくり、AI 時代の行政運用への一層の理解と準備を促しました。
4 倍の生産性、その先を見据えて

執行役員 常務 パブリックセクター事業本部長
佐藤 亮太
最後に「Azure GovTech Day 2025」のクロージングスピーチとして、弊社 佐藤が登壇し、一日を通じて多様なセッションに参加した聴講者への感謝を述べました。自身も「自社の人間でも多くの学びがあった一日だった」と振り返り、イベントの充実ぶりを示しました。
佐藤はソフトウェア業界が現在「地殻変動」のただ中にあると強調し、「AI の登場によって技術の進化がかつてないスピードで加速しており、マイクロソフトでも社内全体で迅速に学習と共有を重ねながら、最先端をリードしています」と述べました。また、マイクロソフトが近年発表した製品やサービスが大幅に増えていることを例に挙げ、AI によりソフトウェア開発の生産性が大きく向上し、今後もさらなる伸びが期待されると語りました。
また、自治体のデジタル化をけん引する担当副知事の方との対話を引き合いに出し、テクノロジーの進化において「何がキラーアプリになるかは誰にも予測できない」と指摘。「インターネットやスマートフォンの登場時も、誰もがその先にどのような活用が広がるかを想像できなかった」としつつ、「新しい技術はとにかく徹底的に使い込むことで、新たなユースケースやシナリオが生まれる」と語り、参加者へ「日頃の業務でもプライベートでも、まずは使ってみること」を呼びかけました。
行政領域における AI 導入は進行速度に差があるものの、「技術革新は確実にソフトウェア産業全体を塗り替える」と佐藤は語り、「この急速な進化の波に備えるためにも、『今の 4 倍の生産性が、2 年後にどこまで伸びるか』を意識して、各省庁の政策検討を進めていただきたい」と参加者に思索を促し、クロージングを締めくくりました。
本レポートでお伝えしたとおり、政策動向から最先端の AI・クラウド技術、そして現場での実装事例まで、多彩な視点が融合した 1 日となりました。日本マイクロソフトは、皆さまの行政 DX を支えるパートナーとして、セキュアで信頼性の高いプラットフォームと最新テクノロジーをさらに磨き上げ、皆さまのご支援を続けてまいります。