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マイクロソフトが金融向け GPT セミナー初開催!東京海上日動火災の利用方法とは
※こちらの記事は、Digital FIT からの転載記事となります。
![Portrait](https://www.microsoft.com/ja-jp/industry/blog/wp-content/uploads/sites/12/2023/08/0629_Seminar_1.jpg)
「問い合わせ内容を投げて、AI から回答が返ってきたときは感動した」――。東京海上日動火災保険 dX 推進部課長代理 高山 寛史氏は、生成AIを活用した照会応答システムに初めて触れたときのことを、こう振り返った。
そして、「業務適用への可能性を実感した。現場でも前向きな反応をもらっている」と付け加えた。生成 AI の金融業務への活用可能性を示す率直な感想だ。
ChatGPT など生成 AI への関心が高まり、金融業務への適用も盛んに議論されている。各金融機関からも、試験運用や実証実験の開始などのアナウンスが次々と出ている。一方で、「生成AIは金融業務で本当に使えるものなのか」、「いったいどうやって業務適用をしてるのか」といった疑問に対する具体的な回答が聞ける場は決して多くない。
そんな中、日本マイクロソフトは 2023 年 6 月 29 日(木)、金融機関に特化した生成AI活用セミナー「金融機関向け Azure OpenAI セミナー」を開催した。日本マイクロソフトが開催する初の金融特化の生成 AI セミナーだ。会場は、メガバンクや地方銀行、保険会社など 120 名の参加者で満席となった。
そこで語られたのは、東京海上ホールディングス・東京海上日動火災保険による活用事例の紹介。そして、5 月に開催された Microsoft Build 2023 や 6 月に開催された Microsoft Build Japan の発表内容を踏まえた今後の Microsoft の取り組みなどだ。
本稿では当日の模様をご紹介する。
(取材協力:FIT 事務局)
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目次
日報アプリのデモなどで金融機関での使い方を提示
![Portrait Mr. Okazaki](https://www.microsoft.com/ja-jp/industry/blog/wp-content/uploads/sites/12/2023/08/0629_Seminar_2.jpg)
ChatGPTに代表される生成 AI が大きな盛り上がりを見せている。基調講演「金融業界における MicrosoftのAI 活用~Microsoft Build Update~」で、日本マイクロソフト 執行役員 常務 クラウド & ソリューション事業本部長 岡嵜 禎氏はこの要因を「精度が大きく上がり、活用するための手間が大きく下がっている」ためだと強調した。
そして、生成 AI の活用を目指す金融機関に対して、日本マイクロソフトは OpenAI 社やパートナー企業と共同で、迅速な導入、安定した運用、安心・安全なAI活用などの価値を提供していく。その中心的な役割を担うのが、OpenAI 社の AI を利用できるクラウドサービス「Microsoft Azure OpenAI Service (以下 Azure OpenAI Service) 」だ。
例えば、ローコード開発環境である「Microsoft Power Platform」を使用することで、生成 AI を組み込んだ様々な業務アプリを作成できる。岡嵜氏は例として「活動報告アプリ with GPT」のデモを披露した。業務日報アプリに生成 AI を組み込んだもので、日付や活動内容などを登録すると AI が文章の添削や誤字・誤変換の指摘などをしてくれる。さらに、AI が 1 週間分の日報を解析し、週報(サマリー)まで作成してくれた。
次に Microsoft Build で発表された 50 以上の新機能から重要なものをピックアップして紹介した。
まずは「Copilot stack」。Microsoft は自社製品に AI によるユーザー支援機能 (Copilot) を組み込んでいるが、利用企業の間で自社の業務アプリなどにも独自の Copilot 機能を組み込みたいというニーズが増加しているという。Copilot stack は独自の Copilot を組み込むための方法論だ。セミナー中では、デモとしてプラグインを利用した法律文書のチェック機能や変更箇所の抽出機能が実演された。生成 AI はプラグインによって様々な機能拡張が可能になっている。Microsoft と OpenAI 社のプラグイン仕様は共通化されており、1 つの開発で Microsoft 製品や ChatGPT など様々な生成AIを使用したシステムの機能を拡張していくことができる。
また、Microsoft が重視する「責任ある AI の原則」を担保する仕組みとして、「Azure AI Content Safety」も紹介した。AI が作成したコンテンツであるかを判別すると同時に、不正なコンテンツでないかもチェックすることで、AI 活用の公平性や信頼性・安全性、プライバシーとセキュリティ、包括性、透明性、説明責任などを確保していく。
最後に岡嵜氏は、「生成 AI は DX 推進の核になる。どのように活用して何をしていくのか、どれだけ迅速にできるかが重要だ。日本マイクロソフトは金融機関の生成 AI 活用を支援していきたい」と決意を語った。
生成 AI は万能ではない。業務に特化した活用の仕組み(東京海上日動火災保険の事例)
![Portrait Mr.Sato](https://www.microsoft.com/ja-jp/industry/blog/wp-content/uploads/sites/12/2023/08/0629_Seminar_3.jpg)
生成 AI はなんでもできるように思われがちだが、弱点も多い。では、生成 AI をどうやって業務で生かしていけばいいのか。その方法が語られたのが、東京海上ホールディングスと東京海上日動火災保険、PKSHA Technology による事例セミナー「AI が創る保険業界の未来のコミュニケーション」だった。東京海上ホールディングス デジタル戦略部マネージャー 佐藤 竜介氏や東京海上日動火災保険 dX 推進部課長代理 高山 寛史氏、システム構築を手掛ける PKSHA Technology 事業本部 三尾 俊平氏が試験運用やシステムの仕組みなどを紹介した。
東京海上日動火災保険では、早いうちから生成 AI の業務活用について議論を重ねてきたという。活用のアイデアを出し合い、実現可能性や業務上の効果などの観点で取り組む業務分野を決定した。代理店などからの問い合わせに営業担当者が回答するときに、回答内容の作成を補助する照会応答システムとして試験運用を実施している。これまで、問い合わせがあると、営業担当者が約款・ハンドブックや社内 QA などの情報を調べて回答していた。照会応答システムでは、生成 AI が社内情報を検索し回答文を作成する。さらに、回答の作成時に参照した文書も表示する。営業担当者はAIが生成した回答文を確認・利用して問い合わせ対応をすればよいので、対応にかかる時間が大幅に短縮できる。
東京海上日動火災保険の高山氏は「生成 AI を実務で活用するには一定のハードルがあった」と振り返る。保険特有の専門用語や複雑な約款などだ。そのため、日本マイクロソフトや自然言語処理に強みを持つ PKSHA Technology と連携しシステム化を進めることにした。PKSHA Technology の三尾氏は最初に話を聞いたとき「保険業界特有の課題があり ChatGPT だけでは実現が難しい」と感じたという。そして、「セキュリティやデータ処理などの各種機能と組み合わせることで課題を解決できる」と考えた。
まずはセキュリティだ。顧客情報を扱うことの多い金融業務に対し、安全性を確保するためには Azure OpenAI Service の利用が最適だった。また、入力された情報から個人情報を削除するデータ処理機能も組み合わせて、万全のセキュリティ体制を構築する予定をしている。次に、約款のテキスト化機能が必要になった。社内情報から問い合わせに関連する文書を探すための検索機能も開発した。こうして、ブロックを組み合わせるように、それぞれの課題を解決する機能を作っていった。
実際のシステムでは問い合わせ内容が入力されると、検索機能が約款や FAQ などの社内情報を検索し関連する文書をピックアップする。関連文書の中から回答を作成するよう GPT に指示することで正確性の高い回答文が作成されるようになる。
試験運用は大きく 2 つのフェーズに分かれており、現在は第 1 段階として約款などの公開情報だけを使用した照会応答を実施している。今後は、第 2 段階として機密情報や個人情報など非公開情報の活用も進めていく。また、現在は自動車保険分野で運用しているが、今後は火災保険など利用分野も広げていくとしている。あわせて、新しい活用領域にもチャレンジしていく方針だ。東京海上ホールディングスの佐藤氏は、「AI のリスクをしっかり把握し、金融領域でどう生成 AI を活用していくべきかを議論しながら、人とデジタルのベストミックスを図っていく」と締めくくった。
そもそも GPT って?
![Portrait Mr. Gamou](https://www.microsoft.com/ja-jp/industry/blog/wp-content/uploads/sites/12/2023/08/0629_Seminar_4.jpg)
続いて、日本マイクロソフト クラウドソリューションアーキテクト Azure OpenAI Champ 蒲生 弘郷氏が「ChatGPT がもたらすインパクトと生成 AI 時代を支える Microsoft Cloud」と題し、GPT の基礎や Azure OpenAI Service について解説した。
そもそも GPT とは、自然言語処理で「次に入りそうな単語」を予測し自然な文章を生成することができる AI モデルのことだ。有名な ChatGPT は、この GPT を使用してチャット形式で自然な会話をすることができるサービスとなる。予測にあたっては、学習データとプロンプト(GPT に対する命令文)、文脈を加味して確率分布を生成し、次に入りそうな単語を選択していく。この GPT を使用した最初のサービスは「GitHub Copilot」で、関数の説明などを書くとプログラミングコードを生成してくれるものだった。
GPT には弱点が多くあることも知られている。最新情報には疎いし計算も苦手だ。時にはハルシネーションとよばれる「もっともらしいウソ」もつく。しかし、「苦手だからといって、何もできないわけじゃないのが GPT の奥深さ」と蒲生氏は語る。事実関係をしっかりとデータで与えてあげれば最新の情報をもとに推論できるし、計算などの苦手なことはツールと連携することで克服できる。
例えば、GPT を活用した Bing チャットで「2023 年の WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の優勝国はどこ?」と聞くとする。GPT は 2021 年 9 月までの情報を学習しているので、単体では回答することができない。しかし、Bing チャットでは、ツールを使ってこの質問から検索用のキーワード「2023 WBC 優勝国」を抜き出す。そして、このキーワードで検索ツールがWeb検索をかけて結果を取得する。検索結果を改めて GPT に与えて、それをもとに回答するよう指示することで、結果的に「日本」と正しく回答できるようになる。このように、ツールと組み合わせれば、GPT の苦手部分をカバーしながら色々な使い方ができる。前述の東京海上日動火災保険の照会応答システムも同様の発想で様々なツールと組み合わせて構築されている。
Microsoft は自社の製品に AI 機能を搭載すると発表しており、「Microsoft 365」やインターネットブラウザ「Microsoft Edge」、「Microsoft Windows」、セキュリティ製品にもAIが組み込まれていく。一方で、金融機関が自社サービスや社内システムで生成AIを活用していく場合に利用するのが Azure OpenAI Service。データとプロンプトを送ると、GPT が推論結果を返すサービスだ。このサービスを使うことで、業務システムなどに生成 AI を組み込むことができる。
Azure OpenAI Service は、最初は GPT の API だけを提供する形でスタートした。しかし、GPT が注目を集め、様々な企業・領域で活用されるとともに、Azure OpenAI Service も開発や管理を支援する多くの機能が付加されていった。
例えば、「Prompt Flow」では、プロンプトの管理や可視化が可能だ。GPT ではプロンプトの書き方を工夫することで、より望ましい回答を得ることができるようになる。こういったテクニックを用いることをプロンプトエンジニアリングと呼び、注目を集めている。テクニックは多岐にわたるため、プロンプトは複雑になりやすい。この管理を容易にするのが Prompt Flow だ。
また、「Azure OpenAI Service On Your Data」機能は、長いプロンプトを GPT が扱える長さに自動で区切ってくれる。検索ツールと連動したチャットボットを手軽に設置できるなど、試験運用が容易になる機能だ。蒲生氏は「日本マイクロソフトは GPT のプロジェクト経験が豊富で強みが多い。GPT を使って未来を変えたいと考える企業をサポートしていきたい」と話した。
パートナー企業セッション
![Photo of session](https://www.microsoft.com/ja-jp/industry/blog/wp-content/uploads/sites/12/2023/08/0629_Seminar_5.jpg)
次に Azure OpenAI Service の導入サポートをしているパートナー企業6社が登壇し、それぞれのソリューション内容や強みを紹介した。
・アバナード
「アバナード・インサイト・ディスカバリー」は、金融機関内の文書や音声、動画データを解析しレポートを作成するソリューション。データソースの位置を変えずに、そのままの状態で取り込んで検索できるのが特徴。また、アプリ開発やAIガバナンス、ガイドライン作成、行職員への定着支援までワンストップで提供できるのも強みだ。
・PKSHA Technology
2023 年 3 月に提供を開始した「PKSHA LLMS」は、金融機関へ生成 AI 関連の技術やノウハウを提供し、実際の業務で使えるシステムに仕上げていくソリューション。例えば、稟議書を自動で生成するシステムを開発しているという。金融機関ごとに中身や重要視するポイントの異なる稟議書だが、採用金融機関にあわせて作成できるようにしている。
・電通国際情報サービス
GPT 導入プロセスを、①行職員が自由に試せる環境を構築②ログから利用方法を分析③実際の業務に適用して更に利用率を向上させる――の循環を回すことと定義し、それぞれのフェーズを支援するソリューション群「Know Narrator」を提供。すでに十数社で採用されているという。GPT の有効活用には、行職員の自主性が重要となるため、自主性をうまく活用できるソリューションとなっている。
・日本ビジネスシステムズ
GPT 技術を安心・迅速に導入するためのコンサルティングサービス「アイプリシティ チャット Powered by ChatGPT API」を手掛けている。「ChatGPT を試してみたい」という金融機関からの要望に対応し、素早く簡単に使用開始できるチャットサービスだ。閉域網の安全な環境で試行を開始できる。あわせて導入コンサルティングも提供する。
・ブレインパッド
データ分析やデジタルマーケティングに関するサービスを手掛ける同社は、ChatGPT によりデジタルマーケティングは「超パーソナライズ時代」が来ると予測する。いくつかのおすすめ商品を提示するのではなく、顧客に最適な商品を 1 つに絞って提案する時代だ。活用領域の洗い出しやシステム実装、業務アプリ開発、ハルシネーション対策などで金融機関を支援していく方針。
・日本アイ・ビー・エム
コンタクトセンターの照会応答や金融機関の基幹業務周りに残る少量多品種業務の自動化、KYC 業務、融資稟議書作成支援など、国内外金融機関での様々な AI 活用例を紹介した。さらに、コンサルティングサービスとしてロードマップ作成や戦略作成なども手掛けており、それらの事例・ノウハウをもとに金融機関の AI 導入を支援していく方針だ。
懇親会
![Photo of speakers](https://www.microsoft.com/ja-jp/industry/blog/wp-content/uploads/sites/12/2023/08/0629_Seminar_6.jpg)
最後に、講師、参加者が参加する懇親会が開かれた。会場では多くの金融機関参加者が生成 AI の活用などで意見を交わしていた。
参加者からは「事例が参考になった。特に、社内での試験運用の進め方が勉強になった」や「期待していた内容を聞くことができた」、「日本マイクロソフトの今後の取り組みについて知ることができてよかった」など、満足度の高さがうかがえる感想が多かった。また、生成AIは社会的な関心の高さもあり、「普段、保守的な利用部門にも協力をしてもらいやすい」といった声もあり、今後も活用領域は広がっていきそうだ。