「Kadai DX 塾」で語られた、リコー × 香川大学による産学連携の可能性
2023 年 2 月 10 日・17 日の 2 日間、香川大学地域人材共創センターは令和 4 年度香川大学リカレント専門講座として『「Kadai DX 塾」 ゼロから始めるデジタルトランスフォーメーション』を開講しました。
香川大学は 2022 年 5 月 20 日より日本マイクロソフトと連携協定を締結し、昨今ニーズが高まっている DX 推進人材の育成を通して大学改革と地域活性化に取り組んでいます。
日本マイクロソフトが後援する形で開催された本講座では、香川大学が実践してきたノウハウや実際の成果が共有されるとともに、変革の最前線で活躍する教員や現場担当者によるハンズオンセミナーが提供され、Microsoft 製品による業務効率化や DX の奥行きと可能性を感じさせるものとなりました。
2 日目の冒頭に行われた本セッション「リコーグループの DX の取り組み」では、株式会社リコーからクロスアポイントメント制度を活用して香川大学情報メディアセンターで研究開発に取り組まれている特命教授山田 哲氏、同じく特命准教授 浅木森 浩樹氏がそれぞれ、産学連携の可能性について語りました。
“多様性のるつぼ”である大学の DX 推進によって得られる知見は深い
株式会社リコーは OA (Office Automation: オフィスの機械化)を中心として、日本全国にビジネスを展開してきました。しかしコロナ禍によるリモートワークの普及やオフィスの DX が進むにつれ、「リコーは“OA メーカー”ではなくなった」と山田氏は話します。
「リコーが 1977 年に OA をコンセプトとして掲げたのは、『オフィスで働く人を単純作業から解放し、人間らしい創造性を活かした働き方』を目指すためです。リコーは設立 100 周年に向けた 2036 年ビジョンとして「“はたらく”に歓びを」を掲げて、OA のコンセプトを進化させ、『デジタルサービスの会社に生まれ変わる』という新たなメッセージを発信しています。すでに展開していた『クラウドサービス for Ofiice365』や『RICOH フルマネージドサービス for Microsoft 365®』に加えて、2022 年 10 月からはリコーとサイボウズとの協業から生まれた『RICOH kintone plus』の提供も開始しました。幅広いお客様に対してデジタルサービスをお届けできるように努めています」(山田氏)。
そのような状況において、山田氏が「きわめて重要」と位置付けるのが、今回の「Kadai DX 塾」も含めた香川大学との取り組みです。リコージャパンは香川大学と 2018 年 2 月に包括連携協定を締結し、地域課題の解決や ICT の活用に向けてともに歩んできました。山田氏は同学での取り組みを振り返り、その意義を強調します。
「大学には、教員・職員・学生という多様な人材が在籍しています。まさに多様性のるつぼとも言える場所で DX の実現をともにこころみることで、『デジタルサービスの会社に生まれ変わる』を目指しているリコーグループにとっても貴重な学びが得られるはずです。とくに香川大学においては、DX に強い関心をお持ちの方が学内外から集う求心力があると感じています。たとえば先日(2022 年 12 月)開催した『Kadai DX ナイトサロン』では、夜間の開催にもかかわらず熱量の高い参加者が集まり、DX について熱い議論を交わすことができました」(山田氏)
山田氏は経済産業省による DX レポート(2018 年)や日本商工会議所によるアンケート、情報処理推進機構(IPA)による「DX 白書 2023」を引用しながら、セッション前半をこう締めくくりました。
「経済産業省によれば、このまま社会が変化しなければ、社内システムのブラックボックス化やシステムトラブルによるデータ漏えい・損失が相次ぎ、2025 年以降には年間最大 12 兆円もの経済損失(通称「2025 年の崖」)が生まれると言われています。ところが日本商工会議所や IPA のデータによると、中小企業の多くが『どこから DX に手をつければよいのか分からない』『取り組む予定がない』と答えている状況です。我々リコーグループと香川大学が多様なケーススタディを生み出すことで、こうした社会課題を解決していければ嬉しいですね」(山田氏)
実証実験で実感した、開発者主体の“限界”
セッション後半は、香川大学情報メディアセンター特命准教授 浅木森 浩樹氏によるトークです。技術者としてプロダクト開発の最前線に立ち続けてきたという浅木森氏は、同社の課題をこう総括します。
「リコーで商品開発に従事している開発者は、従来プロダクトアウト型の開発手法を身につけていれば問題ありませんでしたが、それだけではお客様に価値を迅速に届けることができず、マーケットイン型の開発手法を身につけることが求められています。ところが、いざお客様のニーズに応えようとすると、お客様自身がみずからの要望を把握していなかったり、時間をかけて開発するうちにニーズが変わってしまったりということが起きていました。香川大学との取り組みは、リコーで商品開発に従事している技術者がデザイン思考を学び、ユーザーと一緒に活動し、必要最低限な機能を開発しながら少しずつプロダクトのクオリティを高めていくサイクルを体得していく場でもあるのです」(浅木森氏)。
浅木森氏は実践の大切さを強調すべく、小豆島での実証実験を紹介しながらこう語ります。
「この実証実験では、小豆島にあるオリーブ農園の協力を得て、土壌の水分を測定するシステムを開発し、スマート農業の実現可能性を探りました。開発には ifLink や Microsoft Power Automate、kintone を活用し、実際に動かすところまでは実現できたのですが、結論からいえば、オリーブ農園の方が感じていた課題とリコーの技術者が提供したソリューションが一致していませんでした。というのも、我々が開発したシステムを検証した結果、課題解決に至らないことがわかったのです。ユーザー主体の要件定義でなければ、いかに限界があるかを実感することになりました」(浅木森氏)。
浅木森氏によれば、本当に必要なシステムを開発するコツは「そのままキャッチコピーにできるくらい、一言で簡潔にコンセプトを説明できるシステムにすること」といいます。リコーの貴重な学びは、あれもこれもと機能を盛り込まず、最小限の開発をおこない、その都度ユーザーに問うていくサイクルこそが DX 成功のカギになることを改めて示しました。
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